三十三話 一年夏休み12
「どうぞ」
有村さんの声に千裕さんが答えてしまう。どうぞじゃないです。心の準備もできてない。
静かに扉を開けて、そして部屋の中に三人入ってくる。
有村さんと、有村さんそっくりなイケオジと、お爺さん。
……増えてるな??
「君が間切波留さんだね?」
「はい」
何故聞いていたよりも人が増えているのか。貴方方は私のノミのような心臓を止めたいのか。死ぬぞ。
威厳溢れる有村さんそっくりな男性は私の目の前に来た。背高い。分けてほしい。
「……息子が世話になったと聞いた。ありがとう」
「……」
男性は私の目の前で腰をおり、とても綺麗なお辞儀を披露した。凄い。そしてやはり有村さんの父親だったか。そっくりですね。ところで頭を上げてもらえませんか。
「あの、私は何もしていないので顔を上げてもらえませんか。寧ろ私のほうがお世話になっているので……」
演劇から始まり、何だかんだ有村さんには遊んでもらった。良いお兄さんである。ただし無類の可愛いもの好きで、兄がお気に入り。
「息子はもともと外に遊びに行くような子供ではなかった」
「え? あ、はい」
だから遊園地行ったことなかったのか。
「それは私の教育のせいだ。それが、君のご兄弟と君のおかげで外に出るようになった。私ではできなかったことだ」
「……」
この人。
「息子からお土産を貰ったときは感動しすぎて消費期限ギリギリまで飾ったくらいだ」
こ、この人さっきから表情が一切変わらない……。
人のことを言えた義理ではないが、私の目の前に立つこの人は先程から無表情である。私と同レベルだ。
「堅い」
「っ。父さん、いきなり叩かないでくれ。客人の前だ」
私が驚き固まっているのをみた老人は男性の背中を叩いて前に出てきた。御年いくつだろうか。槇原が食いつきそうなイケメン爺だ。父ということは有村さんの祖父か。
「すまないな。こんな息子で。怖かったろう」
ニコニコと笑いかけてくるこのお爺さんは表情豊かな方のようだ。
「自分の息子が話す話題によく出る子供を見たいと言ってな」
「こんなんですみません」
「いやいや可愛らしいお嬢さんだ。…………無表情なのが良く似てるな」
「表情筋が死滅してまして……。必要時には笑いますが」
「笑顔は筋肉だ。鍛えておくといいぞ」
なるほど。鍛えておくか。
「もう、いいですか……!!」
どうやら恥ずかしかったらしい。顔を赤くした有村さんが声を上げた。
「まだ連絡先を交換していない」
「儂も」
「してどうするんですか二人とも!」
「「お前の話を聞く」」
「やめてください頼みますから! 間切さんも断って……交換してる!」
有村さんの言葉なんぞどこ吹く風で二人は私と連絡先を交換した。今日はきちんと携帯を持って来たんだ。こんな年上と交換するのは初めてだな。
「こういう繋がりはいつ役に立つかわからないからな。コネはあったほうが良い。良い選択だろう」
「そうですけど……!!」
「間切くんたちとも交換済だ」
「っーー!!!」
有村さんが頭を抱えてしまった。そうか、兄弟とも交換したのか。この人たち意外とマイペースなのでは?
「間切さん、お兄さんにうちの旅館への招待券を渡してあるから今度ご家族と一緒に来るといい」
「ありがとうございます」
「綾人がシフトに入ってる日にちも後で送るから。その日に来るといい。働く綾人が見られる」
「カメラ持ち込みOKですか?」
「問題ない」
じゃあカメラ持っていって有村さんを撮るとしよう。




