三十二話 一年夏休み11
「あー! 間切ちゃんかわいいー!」
二人で沈黙していると茜さんの明るい声が響いた。
「やっぱりぶかぶかだね! 可愛い! 写真とっていい? あ、もしかしてズボン履けなかった? 可愛い!」
「ね え さ ん ?」
「かーわーいーいー! うちの子にしたい!」
辻村くんをガン無視して私に抱きつく茜さんはとても楽しそうである。
「間切ちゃんどう? マサの服を着た感想は? あー可愛い……」
「屈辱」
「なんで!?」
私の返答が予想外だったのか辻村が驚いていた。茜さんは相変わらずギュウギュウ抱きついてくる。良い匂い。
「……自分が凄く身長低く感じるから」
「あぁ……取り敢えずこっちに着替えよう。姉さんはちょっと僕とお話しようか」
「ん」
「えー、このままでいいじゃない。お泊りしよー。それ寝間着に使っていいから」
「すみません、お泊り道具持ってきてないので」
「ちぇ〜」
「ほら、姉さん離れて。間切さんごめんね」
茜さんを私から引き剥がした辻村は謝ってから外に出た。別にそこまで気にしていないのでいい。身長はまだ伸びるし。たぶん。…………たぶん。きっと。
渡された服に着替えて外に出る。膝丈のワンピースは少し大きいが先程よりはマシである。
「さてさてこのあとどうするか」
兄弟はどこにいるだろう。人様の家を勝手に出歩くのもな。
私は取り敢えずその場に待機することにした。そのうち辻村たちが来てくれるだろう。
「間切ちゃーん」
「千裕さん」
手持ち無沙汰でぼーっとしていると千裕さんが顔を覗かせた。私がいるのを認識すると軽い足取りでこちらに来る。
「やっぱり私のじゃ少し大きいわね」
「お借りしてしまってすみません。洗ってお返しします」
「いいわよ。どうせ捨てなきゃいけなかったから」
「捨てるんです?」
「この家を出るから断捨離」
そうか、結婚するから家を出るのか。それはそうか。きっと有村さんも実家を出て、二人で暮らすのだろう。もしくは有村さんの実家に行くのか。どちらにせよ嫁入りする千裕さんはもうこの家を出る。
「少し大きいけれど、もう少し身長が伸びれば良い感じになるかしらねぇ」
「……」
伸びるだろうか。
最近あまり伸びていないように感じる身長に若干の不安を感じた。え、伸びるよね? 母も父もどっちももっと背高いもの。伸びる。きっと。
「そういえば、もうすぐ有村くんとそのお父様がここに来るわ」
「何故」
「貴女に会いに」
逃げていいだろうか。有村さんはわかる。なぜその父親が私に会いに来る。本当にわからない。怖い。
「千裕さん、間切さん、入っていいかな」
どこか固い有村さんの声が扉の外から聞こえた。




