二十九話 1年夏休み8
数十分後、私はちゃんとした女子になっていた。すごい。
「時間があったらもっと拘るんですが……」
「いや十分だよ。ありがとう。器用だね」
鏡に映る自分の顔はきちんとメイクを施され、髪も器用に纏められている。結局巻かなかったようだ。
一通り自分を見たあと木野村を振り返れば彼女も身支度終えていた。可愛い。
「木野村さんいつも可愛いけどお洒落するともっと可愛い」
「ありがとうございます! 波留ちゃんも可愛いです! 写真を撮っても?」
「良いよ」
木野村の携帯で二人の写真を撮る。凄い、女子してるよ私。
「波留ちゃん、今度遊びに行きましょう? ……あ、でも誰かに見られたら目立ちますね。私の家で遊びませんか?」
「良いよ」
「では今度連絡します! さ、行きましょう」
どうやら会場……もとい辻村の家へは車で行くらしい。会場辻村の家って凄いよな。どんだけ広いんだ。いや、広いか……。深く考えたらだめだ。
車に乗り込むと隣に座った木野村が何故かソワソワしている。パーティーに慣れていなくて、ということは無いはずだから別の理由だろうが皆目検討もつかない。放置していいかな。
そう考えていると木野村が意を決したように口を開いた。
「あ、あの! 波留ちゃん!」
「ん?」
「……私のこと、名前で呼んでいただけませんか? その、お友達ですし」
……そういえば名前で呼んだ記憶がないな。
「夏鈴ちゃん」
「はいっ!」
「これから夏鈴ちゃんって呼ぶね、他の人がいない時は」
「はい! 波留ちゃん!」
「ん?」
「お友達って良いですね」
「そうだね」
ところでさっきから運転手さんがすごく生暖かい目で見てくるのは何でなんだ。




