二十六話 一年夏休み5
今日は良い天気だ。暑いけど。凄く蒸し暑いけど。
「天気も良いので少し電車に乗ってパン屋さんに行ってくる」
良い天気なので菊野先生にオススメされたパン屋に行くことにする。
「ちょ、姉さん日焼け止め塗った!?」
「忘れてた」
「やっぱり。はい日焼け止め。あと一人で大丈夫? ついていこうか?」
「問題ないよ。すぐ帰ってくる」
圭から渡された日焼け止めを塗りながら答える。帽子もかぶった。
「スタンガン持ったか? スプレーとブザーは?」
「持ったよ」
お陰様でとても物騒な鞄になった。これ、職質されないだろうか。
「携帯はここにあるけど、持っていかないの?」
「……忘れてました」
「何かあったら連絡してね」
「わかりました」
兄弟と一宮さんに見送られながら家を出る。あの人たち私のこと3歳児だと思ってるんじゃないだろうか。何故ここまで心配されるのか。……日焼け止め塗らなかったのも、携帯忘れていくところだったのも私の過失だな。これは私が悪い。そして何度も迷子になっているから心配される理由もわかる。これまでの積み重ねが物を言っているわけだ。そろそろ迷子癖と携帯を携帯しない癖を直したい。
最寄り駅から電車に揺られて少し。目的の駅についた私は電車を降りた。初めてくる場所だ。調べたところあのパン屋は駅からそう遠くない場所にあるようだったので、携帯のマップを開いて移動する。何分くらいでつくかな。
私は方向音痴だ。認める。マップを開いてマップの通りに進んでいたはずなのに気がついたら逆方向に進んでいるし、よくわからないところに出た。これはもう駄目だ。それでもなんとかたどり着けたから良かったが。
目的のパン屋についた私はそろりとその扉を開けた。結構な広さがある。そして涼しい。良い匂いがするな、と店内を見て回る。結構いろんな種類のパンが置いてあるようだ。クッキーやケーキもいくらかおいてある。さてさて、どれを買おうか。
「ま、間切さん……!?」
すごく聞き覚えのある声がした。ギギギと振り返ればレジに立って驚愕の表情を浮かべる槇原。何故いる。
槇原は店内に他の客がいないことを一度確認してからレジを離れてきた。
「久しぶり!」
「久しぶり……。バイト?」
「ここ私の家だよ!」
私は天井を仰ぎ見た。




