二十五話 一年夏休み4
「というわけで今度パーティーに行ってきます」
「君たちも大変だねぇ。クッキー食べる?」
「わぁいチョコクッキーだぁ」
はい、と差し出されたクッキーを手に取り頬張る。美味しい。
暑い夏の日、ふらりと公園にいけばまた菊野先生が鳩に囲まれていた。もうこんなふうに会えないと言われていたから吃驚した。恐る恐る声を掛ければ向こうは例年通りほわほわと話しかけてくるから更にびっくりした。
「もうこういうふうには会ってくれないと思ってました」
「今はもうお兄さんと子供じゃなくて先生と生徒だからね」
あぁ、だから座ったときさり気なく距離を置かれたのか。
去年までよりも少し離れたところに座る菊野先生を見て納得する。まぁ離れたと言っても人一人分も空いてないけど。それでも、去年までは普通にすぐ近くに座っていたから、少しだけ寂しい。
「ところでこのクッキーは以前君にあげた店のものなんだけど、行ってみた?」
「いえ。本当に美味しいですね」
「おすすめだよ」
「今度時間を見て行ってみますね。ところで相変わらず鳩に群がられてますね先生」
先生から受け取った袋の店名と、ついでに載っていた住所も確認する。駅からあまり離れていないといいが。
「ほんと、何に反応してるんだか」
「モテ期では?」
「鳩に対してモテても嬉しくないしモテ期長いよ」
「私なんてモテ期存在してませんよ」
「人生で3回あるっていうモテ期は虚数も含まれているらしいよ」
「私のモテ期全部虚数ですか。悲しいです」
「君にそういった願望があるとは思わなかったな」
「まぁないんで」
「冷めてるなぁ」
チョコクッキー美味しいなぁ。
「学校は楽しい?」
「先生は?」
「楽しいよ。生物以外の質問に来る生徒がいるけど」
「それは、彼女いますかみたいな?」
「いや、数学とか物理とか」
「何故……?」
先生は生物の先生である。教職を取るに当たってどの教科もある程度は学んでいるだろうが、それでも専門は生物だ。なぜ数学や物理を菊野先生にきくのか。その疑問の答えを探しながら先生の顔を見る。
…………顔が良いからか。
「イケメンも大変ですね……」
「え、いきなりどうしたの。僕別にイケメンじゃないけど……」
「……」
乙女ゲームの攻略対象は総じてイケメンである。なるほど先生は無自覚。苦労しそうだ。恋愛方面も疎そう。……いや、どうだったっけ? ゲームだとどんな……そういや私序盤やってるときに死んだんだった。内容知らない。
「間切さん?」
「あ、すみません。自分の周りの顔面偏差値の高さに絶望してました」
「間切さんの周り……あぁ、赤坂くんたちか」
そうそう。彼らは総じて顔が良い。辻村くんにいたってはきっと背景にバラでも背負っていると思う。赤坂はひまわりかな。木野村は……だめだ。花に対する知識が乏しすぎて何も思いつかない。でもたぶん可愛い花を背負ってる。槇原も、篠崎も何かしら花を背負っているに違いない。画面がうるさそう。
「彼ら有名だよね。銀杏会だし」
「そうですねぇ」
「何故か彼らの写真が取引されてるらしいし」
「知ってるなら止めてあげましょうよ。肖像権の侵害ですよ」
「噂しか聞いたことがないんだ」
困ったね、と先生は空を仰いだ。たしかに、証拠がなければ止めることはできない。取引している子たちも早々尻尾を出さないだろう。彼らも大変だなぁ。
お久しぶりです。気がついたら三ヶ月以上更新していないという惨事でした。またのんびりやってきますのでお暇なときにでも。




