二十三話 一年夏休み2
「おいし〜!」
「……」
「……」
茜さんは頬を抑えて満面の笑みを浮かべ、千裕さんと有村さんは無言で私達が作ったお菓子を頬張っている。その顔には喜色が浮かんでいるので、美味しいと思ってくれているのだろう。よかったよかった。
因みに兄弟も一緒に食べている。結構甘いもの好きな二人も美味しそうに食べてくれているので満足です。
「それにしても、なんでいきなりお菓子を?」
「私、もうすぐこの家を出るのよ」
初耳である。
千裕さんの言葉に私含めた間切兄弟が目を丸くしていると彼女は楽しそうに笑った。
「結婚するのよ。有村くんと」
「おめでとうございます」
そんな陳腐な言葉を口にする。私は自分の語彙力のなさに絶望した。
ちらりと辻村くんを見れば顔色を変えずに作ったプリンを食べていた。
「で、間切くんたち3人にはこれを渡したくて」
すい、と差し出された3つの封筒を手に取る。封を開けると一枚の紙が出てきた。なんぞ。
「仲の良い人たちだけでパーティーをするの。3人にもぜひ来て欲しくて」
「そんな畏まったものでもないから、おいで」
なるほど。私は別に構わないが。
兄弟を盗み見れば圭がキラキラと目を輝かせていた。兄はそんな弟を優しく眺めている。これは行くの確定だな。
「行きます」
「どんなパーティーなんですか?」
キラキラと目を輝かせる弟を撫でながら兄と私が千裕さんに言う。弟の髪は相変わらずふわふわである。
「立食式のパーティーよ。服装はフォーマルなので来てもらうことになるけど、そこまで気負うものでもないわ」
「他にも赤坂くんとか、君たちの知り合いも幾人か呼ぶつもりだよ」
千裕さんと有村さんの言葉に弟が更に目を輝かせた。立食形式というのが楽しみらしい。食べるの好きだものね。それしても、フォーマルか。いつぶりだろう。ドレスは何着かあるが、まだ着られるだろうか。
「間切ちゃん、どうしたの?」
「あぁ、いえ、私はそういったものにあまり参加しないので家にあるドレスはまだ着られるのかなと。着られないなら買い直さなければならないので」
家に帰ったら確認しよう。
「そういえば間切ちゃんのドレス姿初めて見るなぁ。楽しみ!」
「至って普通の格好になると思うので期待しないでください」
残念なことに私にはファッションセンスというものが皆無に等しいし、見た目だって辻村家のように美しいわけでもない。平々凡々な見た目である。過度な期待を寄せられてもそれに答えられない。
それにしても、もし新しく買うことになったら母親が喜びそうだ。
「母さん喜ぶね!」
「そだね……」
「波留はそういうのに頓着がないからな。着せ替え人形にされるぞ」
「……」
母親の嬉々とした顔が目に浮かぶ。そして何故か辻村から哀れみの視線をもらった。何故だ。
「間切ちゃんのドレス姿楽しみねぇ」
「そうですね〜」
「カメラ持っていこう!」
そして年長三人はのんびりお菓子を食べていた。
久々の更新です。
書いてる人間が多忙&スランプ的な何かに陥ったので更新頻度が下がってます。月一は更新するように頑張りますので気長に待っていただければ幸いです。




