二十話 1年1学期終業式2
「……見た?」
「………………………………ミテナイデス」
携帯を槇原に手渡せばガシリと手首を掴まれる。離してほしい。私は何も見ていない。槇原がガチ目なポージングで盗撮してたとことか見てない。
掴まれた手をなんとかして取り戻そうにも、中々力が強くて振りほどけない。どこにそんな力があるのか。
「じゃあなんで目を合わせてくれないのー!!」
「ちょっと寝違えてこの方向にしか首が動かないんです」
「朝は普通だったよね!?」
「終業式で寝ちゃったから」
「帰りのHRでも普通だったじゃん!」
「……」
「やっとこっち見てくれた……!」
そろりと伺った槇原は泣きそうな顔をしていた。
「……盗撮が趣味なのか……」
そういえば体育祭の時赤坂が盗撮されているという話をしていたな、と思い出して口にする。この子が犯人だったらどうしよう。
「違うの! 私の趣味はこっち!」
ばっと見せられた携帯の画面には多くの画像が映し出されている。画像フォルダか。
眼前に突きつけられたそれを手に取り、少し操作する。
……全て、ご年配の男性の写真である。
「……」
考えてはいけない。感じろ。感じるんだ私。ここから彼女の趣味を感じ取るんだ。
盗撮。
ご年配の男性。しかもイケメン。
………………だめだ。わかりたくない。脳が結論にたどり着くのを拒絶している。
「……………………」
「………………中学の友達には枯れ専って言われてました」
私の周りにはいなかった趣味の方ですね。はい。
「そっか……うん。皆格好良いね……」
「でしょう!? この人とか最高なの! 海外の俳優さんなんだけど、もう良い年なのに筋肉美を保っていて、しかも紳士! 年の功がなせる対応もさることながら時折見せるお茶目な子供みたいな笑顔なんかもう可愛すぎて……ごめんわすれて」
「……」
私の言葉にテンションを上げて何やら話し始めた槇原は少しすると顔面を手で覆って項垂れてしまった。なんて言葉をかけたらいいのかわからない。しかしわかるよ。好きなものの話を振られるとテンション上がるよね。そしてそのテンションで話してドン引きされるよね。うん。
「高校では秘密にするつもりだったのに……」
「誰にも言わないから……」
「うぅ……」
どうしよう。こういう場合どうしたら気分を持ち直してくれるんだろうか。誓約書でも書けば良いんだろうか。
「そ、そんなに落ち込まなくても……」
「だって意味わからないでしょ……気持ち悪いでしょ……」
「え、いやべつに」
「え?」
「だって好きなものは人それぞれだし」
何を好きになるかはその人次第だ。法律を犯したり他人の利益を損なったりしない限りその辺は自由なはず。枯れ専だろうが何だろうか、とくに問題はない。
私の言葉に顔を上げた槇原はじっと私を見てくる。
「本当に?」
「うん」
「…………ほんとう?」
「勿論」
「間切さん最高! 愛してる!!」
勢い良く抱きつかれて私の腰のあたりからえげつない音が聞こえた。
「百合……?」
「あ、秋田くん!」
「腰が……」
「波留さん大丈夫? そしてその道に走ったの? ちょっと感想とか聞かせて欲しい」
「雑食め」
本当、君は薔薇だろうが百合だろうがなんでも食べるな。許容範囲が広すぎないか。
嬉々としてこちらに近づいてくる秋田くんにため息を漏らす。
「いやぁ、驚いたよ。波留さんいないし、探しに来たらなんか抱きついてるし」
「秋田くん、間切さんって素晴らしいね」
「でしょー?」
取り敢えず腰からヤバメな音が聞こえているので槇原は早く私を離してほしい。折れる。
 




