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脇役らしく平和に暮らしたい  作者: 櫻井 羊
高校生編
197/232

十五話


 朝、圭と一緒に少しだけ早くに家を出て、二人で生徒会室に向かった。圭は宿題をやり忘れて、私はなんとなく静かな場所で勉強したかったから。


 二人で黙々と手を進めていれば生徒会室の扉が開かれた。誰が来たのかと顔を上げる。


「あれ、間切さんに間切くん?」

「二人とも早いな」


 来たのは槇原と篠崎だった。


「おはようございます、先輩方」

「おはよう二人とも。早いね」

「おはよう〜。実は今日の古典の予習忘れてて。ほら、あの先生当てるじゃない。教室よりこっちのが静かかなぁって」

「俺は数学の課題やり忘れたから。槇原とは下駄箱で会った」


 なるほど、皆勉強しに来たわけだ。


 教室で勉強しても良いが、暫くすればクラスメイトが登校してくる。そうすれば周りは賑やかになり、勉強の妨げになってしまう。その点生徒会室には限られた人間しか来ないから限界まで静かな状況で勉強ができるというわけだ。因みに図書室はまず開いていない。



 二人が加わったとて、全員各々やりたいことが在るため、静かに勉強していた。





 勉強を続けること暫く、顔を上げて時計を見れば中々に良い時間帯だった。そろそろ教室に行かないとホームルームに遅刻する。

 三人に声を掛ければ全員ササッと荷物を片した。







 圭と別れて三人でクラスに向かうと、ロッカーのある部屋の近くに人混みができていた。何事か。

 三人で少し顔を見合わせたあと、ザワザワとするそこに向かう。どの道荷物をロッカーに入れなければならないのだ。


「なにごと?」

「あ、波留ちゃんおはよう。……見たほうが早いよ」


 おはよう、と人混みの後ろの方にいた早苗ちゃんに返してから、その人混みの中に入る。意外とすんなり通してくれた。



「……」

「……」

「……」


 ロッカーのある部屋の中には、正座する女子が二人と、それを見下ろす無表情の木野村がいた。


 見たほうが早いとは言われたが、見てもわからない。なんてことだ。


「……何があったの?」


 私の隣に立っていた槇原が小さな声でそばに立っていたクラスメイトに尋ねた。


「あれ」


 答えたクラスメイトが指差したのは私が使っているロッカー。ロッカーにはなぜか黒い線が引かれていた。マッキーか何かで引いたのかな。


 ……。



 いや、なんで私のロッカーに? いじめ? これがいじめというものか? いじめってもっとえげつない言葉を書くものでは? というかロッカーは学校のものなのであんなことをされても特に何も感じない。


 しかしこの状況はどうしたものか。そろそろ荷物をしまいたい。


「あっ、間切おはよー」

「おはよう」

 頼むから空気を読んでくれ。

 よく響くその声で私に挨拶をしてきた赤坂への文句は心のうちに留める。そしてその声に反応した木野村がこちらを向いた。


「あー……木野村さ……ま、一体何が?」

「この子達が貴女のロッカーに何やらいたずらをしようとしていたので、その詳細を聞こうと思いまして」

 美女の笑顔は時に得もしれぬ恐怖を抱かせるものである。こわい。


「えっ!?」


 室温が下がったのではと錯覚するほど怖い笑顔に私が恐怖している中、なんとも間抜けな声が響いた。正座していたうちの一人がこちらを間抜けな顔で見ている。


「ここ、間切さんのロッカーなの!?」

「そうだが」

「え、でも、出席番号……!」


 あぁなるほど。この子達は私達のクラスの生徒ではないから、私が槇原さんとロッカーの場所を交換したことを知らないのか。ロッカーには出席番号が振られているし、そこから割り出したんだろう。つまり、彼女たちが悪戯しようとしたのは槇原のロッカーということになる。


 予想外であったのだろう事実に二人でワタワタとする中、一人がこちらを向いた。


「なんでロッカーが変わってるの!?」

「…………」


 これは別に、意地悪でも何でもなく、ただ疑問に思っているだけなんだろう。表情や声色からそう伺える。


「普通は出席番号順よね!? あれ、なんで!?」

「……………………届かなかったんだよ」

 言いたくはない。言いたくはないが、言わなければ納得しないだろう。特例で出席番号とは違うロッカーを使う理由など。来たときより少しばかりうるさくなった周りにも聞こえるよう、はっきりと告げる。


「え?」


 告げたが、聞こえなかったらしい。それか理解できていないのか。


「…………背伸びしても上まで手が届かなかったんだよ……」

「あっ…………」


 視線を誰もいない壁に向けていえば、哀れみを含んだ視線を向けられた。そんな目で見ないでほしい。別に気にしていない。気にしてない。


「えっと…………小さいと大変だね……」

「……」

 何も言うまい。





「あのー、姉さん……間切波留はいますか?」



 静まり返ったその場にとても聞きなれた声が響いた。疑う余地もなく弟である。


「圭」

「あ、よかった。いた。姉さんの筆箱間違えて鞄に入れちゃってて……。これなにごと?」

「いろいろあったんだよ……」

 はい、と弟から手渡される筆箱を鞄にしまう。隣に来た弟はこの状況に驚いているようだった。



「あ、間切って弟よりも身長ひく」

「夏樹、君の素直さは良い所だけど今は黙ってようね」


 何かを言おうとした赤坂は隣りに居た辻村に口を塞がれていた。何を言おうとしたのか、大体見当がつくけれど、聞かない。絶対に。


「まぁそれは置いておいて……」

 もう時間がないからと、弟が軽く走って部屋を出ていくと、辻村が真面目な顔で口を開いた。


「僕、こういうことする人、好きじゃないな」

「俺も。見ていて良い気分じゃない」

「私もですね」


 普段笑っている人間の真顔怖い。


 真面目な顔をした銀杏会三人の言葉に、実行犯二人は顔を青くした。鐘がなり、教師が来たことでその場はおひらきに。


 取り敢えず私のロッカーにつけられた黒い線は女子二人がきちんと消して、その二人には厳重注意が言い渡された。二人からも謝罪の言葉を頂いた。二人は槇原にも謝りに行ったらしい。








 その日1日、いろんな人に身長のことで気遣われた。つらい。



補足というか、この時の各キャラについて


木野村:思わずその場で女子二人を問いただしたが、さっさとロッカー綺麗にさせて、別の場所で話を聞くなり先生に報告なりした方が、槇原と主人公に嫌なものを見せなくて済んだのではないかと一人で反省。


赤坂:嫌なもの見た。主人公の小ささを改めて実感した。主人公たちのメンタルが心配。


辻村:嫌なもの見た。幼馴染が素直すぎて困ってる。主人公たちのメンタルが心配。


槇原:嫌なもの見たし、何ならちょびっとだけ傷ついた。けど、その後の主人公が哀れすぎてそんなこと吹っ飛んだ。身長のことを色んな人に慰められる主人公が哀れだった。チョコお食べ。


篠崎:嫌なもの見た。ちょっとおこ。身長のことを気にしてるのにいろんな人に慰められる主人公に飴ちゃんあげた。


秋田:本当にこんなことする人居るんだと吃驚。そしてそれに巻き込まれた主人公哀れなり。でも身長のことは笑った。


本田、浅田:嫌なもの見た。おこ。小さいほうが可愛いと思うよってフォローと言う名の追い打ちをかけた。


犯人2人:ちょっと意地悪したかった。後悔も反省もしてる。実はロッカーに落書きしようとしたけど書くこと1つも思いつかなくてロッカーの前でうんうん唸ってた。そして冷静になって「止めよう」って思ったところで木野村が来ちゃって驚いてビッて線引いちゃった。しかもロッカー間違えた。申し訳ない。土下座した。


主人公:全国平均はある。ただこの学校の人間の身長が全国平均よりだいぶ高いだけ。自分は小さくないと言い張る。


弟:最近身長がよく伸びてて成長痛が辛い。間違えて持ってきてしまった姉の筆箱届けに来たら異様な光景を見た。後で何があったのか聞くつもり。


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