十話 1年体育祭 1
高校生初の体育祭である。
とは言ってもそこまで何か変わるわけではない。強いて言うなら男子に騎馬戦が追加されたとか、そんなものだ。
「波留さんがリレー以外に出るの、初めてだね」
「補欠には入ってたけどね………………」
「元気ないね、今日はそこまで湿気も温度もないよ?」
応援席でそう言う秋田くんは頗る元気そうだ。たしかに今日の気候は比較的過ごしやすい。しかしだな……。
「人が……多い……!」
「それは……うん」
うちのクラスにはゲームの攻略キャラが3人、その主人公1人、ライバルが1人いる。その5人全員顔がよく、とても目立つ。同学年の間では全員名が知られているし、他学年の間でも有名だという。
しかも今年は同じ組に山内くんまでいる。彼も有名である。しかも最近背が伸びてきて、少しずつ可愛いから格好いいにシフトチェンジし始めている美少年だ。目立たない訳がない。
そんな見目麗しい人間が集まっているせいか、私の組の応援席の周りには人がごった返している。意味がわからない。女子たちがキャーキャー言ってる。そのなかにやけに低い声が混じっていることには突っ込まない。決して。
「こんだけ学内の有名人が集まったらこうなるよねぇ。みんな顔が良いし!」
「仕方ないね……。波留ちゃん大丈夫?」
「………………いける」
人が多いといっても、満員電車の様になっているわけではない。例年より多いというだけだ。いける。大丈夫。
「というか、波留さん招集かかってるよ。借り物競争」
秋田くんに指摘されてハッと顔を上げる。そうだ、今年は借り物競争にも出なければならないんだった。
腰を上げ、三人に行ってきますと言ってから集合場所に向かう。
「間切さんが借り物競争に出るの珍しいね」
「初めてだもの」
そういえば辻村も借り物競争に出るんだった。
私は集合場所で待機しながら空を見上げた。周りからの視線が痛い。しかし話しかけられたのに無視するのも印象が悪い。
「……そういえばきみ…………じゃない、辻村様は騎馬戦で上になったらしいですね」
「…………僕が下になると潰れそうで怖いらしいよ」
どこか遠い目をした辻村がそう答えた。なるほど。ひょろいからか。たしかに辻村に力仕事とか似合わないものな。
「たしかに潰れそうだ」
「潰れないよ……」
「そう? まぁ、上になったなら相手のハチマキ取らなきゃだもんね。頑張れ」
「……」
私が言葉をかけたら辻村が目を見開いて固まってしまった。何故だ。
パチパチと数度瞬きをしてから、辻村は満面の笑みを浮かべた。うわ美人。
「うん、頑張るよ」
周りからキャーという悲鳴が上がった気がした。




