エイプリルフール 出られない部屋
また本編とはなんの関係もない話。作者が書きたかっただけ。
『ハグしないと出られない部屋。60分以内に実行してください』
「なんでさ!!!」
真っ白な空間に秋田くんの叫びが木霊した。
私と秋田くんは今、何故かわからないが真っ白な部屋に閉じ込められている。どうやら少し前に流行った『〇〇しないと出られない部屋』らしい。
「なんで俺達こんなところにいるの?!」
「エイプリルフールだからじゃないか?」
「エイプリルフールは午前中に嘘を付いて良い日であって、こんなファンタジーが許される日じゃないよ!」
「転生した事自体ファンタジーだからなぁ……こういうこともあるんじゃないか?」
「そうだけども!!」
秋田くんは元気だなぁ、なんて思いながらぼーっとしていると床に置かれた紙が目についた。何か書かれているようなのでそれを拾う。
『ここからでたらここでの出来事はきれいサッパリなかったことになります』
なるほど。
「なるほどじゃないよ波留さん!!」
「秋田くん元気だね」
「まぁね!!!」
「ところで秋田くん眼鏡どうしたの? コンタクトデビュー?」
今現在秋田くんは眼鏡をかけていない。初等部の頃からかけていたから、少しだけ違和感。
「俺風呂上がりだったの!! ほんの数秒前まで全裸だったの!! 服を着た瞬間この空間に来ちゃったの!!」
「全裸じゃなくてよかったね」
「本当にね! そういう波留さんはそれパジャマ?」
「おう。寝る直前」
「災難だったね」
風呂上がりよりはマシだと思う。
「大体さ、こういうのは推しカプを入れるから楽しいんじゃないか」
「それは同意する」
「だから殆どの人はこの部屋に推しカプを……」
秋田くんが突然ハッとした表情を浮かべて言葉を切った。なんだろう。
「つまり公式の推しカプが俺達……?」
真剣な顔で何を言っているんだろうかこの子は。
「公式と解釈違い!!!」
「何を言っているんだ君は」
そもそも公式とは。
「一応聞くが、君の推しカプは何なんだ」
「ナマモノを本人に言うのはちょっと」
「片方は私なんだな」
「口が滑った」
「まぁ人の趣味嗜好に口出しはしないが」
「ありがとう」
「ところでハグしないのか」
まだ時間があるとはいえそろそろ寝たいし戻りたい。とっとと済ませようと秋田くんの方を向く。
「波留さん、俺達一応年頃の男女なんだ……」
「精神年齢30代が何を言う」
「身体はまだ10代だから!!」
「そうだね」
「そういうね、年頃の男女が抱き合うのは如何なものかと思うんですよ」
「ハグしないと出られない」
「なんかもっと別の方法ないのか探そう!?」
「殆どの場合、指定の条件をクリアしないと出られないぞ、この部屋」
「でも極稀に力技で解決してるのあるじゃん!!」
「そんな力が私達にあるとでも?」
大体、壁をぶちやぶって外に出ているのは不思議な力を持った超人たちである。極々一般的な私達には無理だ。
「ないけども!」
「なら諦め……」
諦めなさい、と言おうとした私の視界にひらりと一枚の紙が舞って落ちてきた。咄嗟にキャッチする。
『選べ。
1:指を27本差し出す
2:目玉を3つ差し出す
3:裸踊り
4:どちらかの舌を引っこ抜く
5:どちらかの息の根を止める
6:どちらかが泣く
7:ハグする
』
物騒なのが多すぎる。
「ハグしよう波留さん」
「裸踊りでも良いよ?」
「それやるのたぶん俺だよね?!」
「年頃の娘に裸になれと? 変態かよ」
「男はみんな変態だよ!」
「泣くのも良いと思うんだ」
「波留さん泣けるの?」
「表情筋すらロクに操れない私が意図的に涙を流せるとでも思うのか」
「あ、はい。俺も泣けないけど」
「泣くまで殴るとか」
「暴力反対!!!!」
じゃあやっぱりハグか。よし。
「来い」
「波留さん男前!!!」
両手を広げて秋田くんに声をかけたら秋田くんがそんなことを叫んだ。元気なことだ。
「……来ないの?」
「普通に恥ずかしい」
「思春期か。じゃあこっちから行く」
「はぇ!?」
秋田くんがもだもだして中々こちらに来ないのでこちらから秋田くんに抱きつく。秋田くんは何やら固まったけど、まぁいいか。
「波留さん結構小さいね!?」
「君の目玉を抉り出して捧げてやろうか」
「地雷だったか、ごめん。……波留さん小さい……柔い……」
「君は意外と硬いな」
「一応水泳とかで鍛えられてますんで」
「へぇ」
ぎゅうぎゅうと抱きつけば秋田くんも軽くこちらに腕を回した。ところで、君結構デカイな。縮め。
抱き合っていれば私の後方からガチャリという音が聞こえた。
「開いたのかな」
「ねぇ波留さん」
「なんだい」
「今いきなり壁に扉が出てきたんだけど」
ファンタジーってすごいね。




