四話
うちの学校にはロッカーがある。上下で一人ずつ、縦に二つ並ぶ形のがずらりと揃えられた部屋があるのだ。ロッカーは荷物を入れるのに十分な高さ、広さを有している。
つまり、ロッカーはそこそこの高さがあり、2つ合わせるとそれは軽く私の身長を超えている。
このロッカーは出席番号順に与えられているため、奇数が上、偶数が下のロッカーを使う。今年の私の出席番号は奇数だ。
「…………」
簡単に言えばロッカーの上まで手が届かないのである。とても辛い。……私の身長は女子の平均よりもあるはずなので別に私が小さいわけではない。断じて違う。けど届かない。
ロッカー内部の上の方にも物を置ける場所がある。そこも使いたいのだが……やっぱり届かない。今すぐ私の身長伸びないかな。
「間切さん? 大丈夫?」
ロッカーの前でぷるぷるしながら手を伸ばしていると後ろから槙原に声をかけられた。
「……届かない」
「あ……」
違う。私が小さいわけじゃない。確かに君よりは小さいが平均よりはある。
槙原は私を見下ろしたあと、少しだけ考える素振りをしてから口を開いた。
「私と変わる?」
「……いいの?」
「私なら上まで届くと思うから!」
「助かる。ありがとう」
あと私は小さくない。周りが大きすぎるだけなんだ。
槙原のご厚意に甘え、ロッカーを交換する。あとで担任に報告しておくか。本来なら自分の出席番号が振られたロッカーを使わなければならないのを交換するわけだし。
「そういえば間切さんって部活入ってるの?」
「入ってない。槙原さんは何か入るの?」
荷物を入れ替えながら槙原の質問に答える。
「ん〜、家の手伝いしたいしなぁ。あ、でも生徒会は興味あるかな!」
「へぇ。……たしか篠崎くんが生徒会に入ってて、しかも副会長だったはずだよ。話を聞いてみるといいと思う」
「しのざきくん」
「…………えーと、あ、あれ」
恐らくまだ名前と顔が一致していないのだろう。首を傾げた彼女に、クラスメイトと談笑する篠崎を指差して教える。
「あの人が篠崎くんね! ありがと、今度聞いてみる!」
「いいえ」
「あと質問なんだけど、えっと、木野村さん、辻村くん、赤坂くんの3人にはみんな敬語だよね? それに様つけしてる。なんで?」
「家が凄く裕福だから。詳しい話は美野里ちゃん……浅田さんとかに聞くといろんなこと教えてくれると思う。色々気をつけたほうが良い事とかもあるし」
「気をつけたほうが良いこと?」
「今はだいぶマシになってるらしいけどね」
首を傾げる槙原は更に疑問が増えたようだ。まぁ、たぶん美野里ちゃんが教えてくれるでしょう。私よりも詳しいはずだ。
というか、普通に過ごしていれば問題もないと思うが、如何せん彼女は乙女ゲームの主人公なのだ。主人公というものは基本的に問題に巻き込まれるもの、もしくは巻き起こすものである。知っておいて損はないだろう。何事も起きませんように。




