三話 初日3
「初めまして、私槙原やよいっていうの」
入学式前、担任が教室に入って来たので席に付けば前席に座っていた少女が振り返ってそう言ってきた。
槙原やよい。ゲームの主人公。ゲーム内での髪色はピンクだったがここでは黒髪に落ち着いている。ふんわりとした髪は触り心地が良さそうだ。そして美少女。流石主人公。
「……私は間切波留。よろしく、槙原さん」
初対面として、そしてクラスメイトとして最低限の返事をする。あまり仲良くなりすぎると面倒なことになりそうだ。もう手遅れな気もするが。
「よろしくね、間切さん」
可愛らしい笑みを浮かべる彼女は何処か安心した様子だ。そりゃそうか。この学校殆どが中等部からの持ち上がりだ。うまく馴染めるか不安もあるだろう。
簡単に挨拶をすませれば、担任から入学式についての説明が始まったこともあって槙原さんは前を向いた。
さて、どうするか。
出席番号が前後な以上彼女と関わらずに過ごすのは難しい。なるべく関わらないように避けるのも有りだがあまり印象を悪くしてもいけない。何が起こるかわからないから。かといって仲良くしすぎてもいけない。そんなことになったら確実に何かしらのかたちで巻き込まれる。
つまり、私は程々に仲良くし、あくまでもただのクラスメイトとしての立ち位置を維持しなければならないということだ。
……難易度高いな……。
あまりの難易度の高さに私は窓の外を見た。次席替えしたら窓際が良いな。
人生うまく行かない。これは初等部の頃から嫌というほど実感してきたことだ。もう慣れた。いっそ最悪を想定して動こうか……。
教師の話も終わり、入学式も何事もなく過ぎ、その日は終わった。槙原さんとは連絡先を交換した。
「主人公ってどんな人だっけ」
「明るくて優しい」
「だけ?」
「実家がパン屋」
帰り道、秋田くんと少しだけ寄り道をさせてもらって人気のない公園でそんな話をする。生憎私はゲームについての記憶がもう殆ど無い。秋田くんに確認するしかないのだ。
「あとは……なんかあった気がするけど、基本的に攻略キャラとかに比べると情報が少ないんだよね」
そりゃそうか。言ってしまえば名前だって変更可能なものだし。主人公はプレイヤーが操作するしな。
「どうしたものか」
「どうにかなるよ、きっと……」
空を見上げる秋田くんはどこか遠い目をしていた。そういやこの子今日結構赤坂から話しかけられてたな。席前後だし。
どうやら本当に私達に話しかけるつもりらしい彼らを思い浮かべながら私も一緒にたそがれた。唯一の救いは取り巻きが本当に歓声を上げるだけだったことだ。




