一話 初日
「神は死んだ」
絶望的な声色で秋田くんが呟いた。それなんの言葉だっけか。たしか哲学者だったよな。
「10年目だね」
「……今年もよろしく波留さん」
秋田くんに声を掛ければ彼にしては珍しく静かな声が返ってきた。
高校生活初日、入学式の日。早めに登校してクラス分けを見ればなんと秋田くんとまた同じクラスだった。同じクラスに仲の良い人がいると安心する。因みに早苗ちゃんと美野里ちゃんも一緒。
そして、乙女ゲームに出てきた主要キャラである赤坂、辻村、木野村、篠崎とも一緒だ。秋田くんが落ち込んでいる理由はこれである。
「今すぐクラス替えしないかな」
「無理だろうね」
「絶望」
秋田くんの顔が死んでいる。
「しかも赤坂くんと前後……」
「どんまい」
新学年始まってすぐの席順は出席番号順だろうしな。たぶん席も近くなるだろう。頑張れ。
「……なんか余裕ぶっこいてるけど、波留さんだって人のこと言えないからね?」
「なんでさ」
私は攻略キャラたちとは出席番号が離れている。故に席が前後になることもない。クラスメイトだとしても必要最低限の接触で留められるはずだ。
「『槙原やよい』」
「?」
それは私より出席番号が1つ前の人の名前だが。
「主人公のデフォルトネームだよ」
「…………」
すっかり忘れていた。
つまりあれか。私は主人公である槙原と席が前後になる可能性が高いというわけか。しかも相手は高等部から入ってきた外部生。話しかけるとしたら席が近い人間だろう。つまり私に話しかけてくる可能性も十二分にある。つらい。
「俺達、何事もなく過ごせるかな……」
「この世は理不尽だ……」
この十数年で嫌というほど学んだことを改めて実感した。
取り敢えず、如何にしてこの一年間を平和に過ごすか、それをまず考えねばならない。




