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脇役らしく平和に暮らしたい  作者: 櫻井 羊
中学生編
178/232

おまけ4 卒業文集

 受け持っていた生徒が今年卒業する。といっても殆どの子がそのまま高等部へ進学するので、また学校で会えるのだが。


 しかし卒業は卒業。卒業文集的なものが存在する。


 簡単な作文に、好きなものや嫌いなものなど、簡単なプロフィールが載せられるそれ。自分のクラスの生徒が書いた草案を読んだ俺は頭を抱えた。

 職員室の自分の机の上に置かれた2枚の草案。間切波留と秋田湊のものだ。


 二人とも成績も問題なし、素行も良い。問題点が殆ど無い優秀な子なのだが、今は俺の頭を悩ませている。草案に記されたプロフィールの一部分だけ、他の子達と比べると異彩を放つ回答があった。


『将来の夢はなんですか?』


『間切波留:老衰』

『秋田湊:老衰』



 将来を見通し過ぎだろう。


 将来の夢と言えば大体の子供は就きたい職業などを書く。希望に満ちた答えだ。

 この二人のこれも夢……というか目標に変わりはないから、これでも良いとは思ったが、文集に載せるには些か問題があるのでは、と学年主任に言われてしまったので、二人を呼び出して書き直してもらうことになった。


「というわけで、今書き直してもらえないだろうか」

「駄目ですか、老衰……」

「一番の目標なんですが」

「目標としては駄目ではないんだ。けど、学校としてはもう少し若々しい夢にしてほしくて」

「「若々しい」」


 職員室にある主に質問に来た生徒の勉強を見るためのスペースの一角で呼び出した訳を話せば二人は難しそうな顔をした。


「うーん……」

「若々しい夢……」


 悩む二人を見ながらふと、そう言えばこの二人は他の生徒とは何か違う雰囲気があるなと気がつく。


 ……あぁ、そうだ。15という年に似つかわしくないくらい落ち着いて、達観しているんだ。


 この年にありがちな思春期や反抗期の様子もなく、大人びた様子の二人は気が合うのか気がつけば一緒にいる。聞いたところによると9年間同じクラスだったらしい。


「先生、できました」

「俺も」


 思考に耽っていた俺に二人は草案を見せてきた。なになに。


『間切波留:長生き』

『秋田湊:健康第一』


 ……。


「もしかしてもう人生に疲れてたりしないか?」

「駄目ですか」

「前向きにしたつもりなんですが」

「学年主任に聞いてくる」

 確かに前向きには……たぶんなっているので、一度学年主任のもとへとそれを持っていく。






「駄目だった」

「あちゃー」

「だめかぁ」

 もう一度紙を返せば二人ともまた悩みだす。なんか申し訳ない。二人の夢、目標を否定しているようで心が痛い。


「先生、やっぱりこの欄は皆職業書いてるんですか?」

「殆どそうだな」

 手元にある皆の草案をめくりながら答える。うん。

「職業かぁ。俺今の所特にないんだよなぁ」

「職業、とは限定されてないから職業じゃなくてもいいんだけどな。たぶん、学年主任は中学3年生らしい回答を期待しているんじゃないか?」

「……『モテモテになりたい』とか?」

「そこまで現実的なのじゃなくて」

「ん」

 秋田と話しているうちに間切が書き終えたらしく、紙を見せてくる。


『強い人』


 なるほど。……いや、うん?


「そんな感じでいいのか〜」

 間切の回答を見た秋田もサラサラと回答を記入した。


『強い人』


 お前もか。

「ムキムキになるのか?」

「いや、それは別に求めてないですよ。精神的に、それから病気に強くなりたいんです」

 朗らかに笑う秋田を、間切はなんとも言えない表情で見ていた。……いや、表情としてはいつも通り無表情だな。


 二人の草案を学年主任に見せたらあっさりOKをもらえた。


「間切の強い人ってどんな人なんだ?」

 二人に草案が受理されたことを伝えるついでに聞いてみると、間切は少しだけキョトンとした後、静かに口を開いた。


「……精神的に強い人ですかね、やっぱり」




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