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脇役らしく平和に暮らしたい  作者: 櫻井 羊
中学生編
176/232

おまけ2

3年時夏休みの海での話。

 海だ。



「海だな!」

「そうだね」

「たーまやー!」

「圭、それは花火とかのときに言う感嘆符よ」

「……」


 家族全員のテンションが高い。

 それもそうだ。普段忙しい両親と遊びに来ることなんてあまりない。テンションが上がるのもわかる。海にだって滅多にこないし。しかしだな。


「あつ……」


 日本の夏は暑すぎる。


「波留、日焼け止めは塗った?」

「ぬった」

 組み立てたパラソルの下でぐったりしていると母が隣に腰を下ろした。男三人は少し離れたところで準備運動をしている。

「波留は泳がないの?」

「日焼けすると痛いんだよね」

 日焼けすると真っ赤になってヒリヒリする。色は沈着せずに殆どもとの色に戻るのでそれは良いのだが如何せん痛い。お風呂が地獄に様変わりする。


「あらあら」

「私荷物番してるから母さんも泳いできたら?」

「お母さんカナヅチなの」

「そうだっけ?」

「他のスポーツは結構得意なんだけどねぇ。泳ぐのだけは出来なくて。海に入ったら溺れるわ」


 海は沖に出ると足がつかなくなるしなぁ。私も泳ぐことはできるが、海は少し怖かったりする。

 男三人が海に入るのを眺めていると隣から凄く視線を感じた。視線の主は母である。


「母さん、なに?」

「えい」

 私の着ているパーカーのファスナーを唐突に下げた母はまたすぐにそれを上げた。いったいなんだと言うんだ。


「もう少し大人っぽくても良かったかしらねぇ、水着」

「私としては学校のでも良いけどね」

「私が許さないわ」

「えぇ」

 どうやら母は私が着ている水着が些かお気に召さないらしい。上はタンクトップみたいなやつで、下はショートパンツみたいなやつだ。楽で好きなんだが。


「若いうちに色々冒険しておきなさいな。ビキニとか」

「断固拒否」

 まず傷跡が残ってしまったのでなるべく腹部の露出は避けたいところだ。というか、なるべく肌を出したくない。


「え〜。お母さん可愛い波留見たい」

「お母さんまだ若いんだから自分できたらいいと思うよ」

「無理」

「え〜」

「次水着買うときはお母さんも着いてこうかな」

「来年もこれでいいよ」

「あなたまだ成長期じゃない。成長するわよ、たぶん」


 そう言って私を見る母。最後の一言が余計である。まだ成長する。頑張る。

 母とそんな会話をしていると一旦切り上げることにしたのか男三人が戻ってきた。


「おかえり」

「お腹すいた!」

「ちょっと食べ物買ってくるね」

 男三人はなんとも忙しなく店のある方へと歩いていった。元気なことだ。







「兄さん遅いな」


 お昼を食べて、私はパラソルの下でのんびりして時間を過ごしていた。兄が少し前に「かき氷買ってくる」と言って店に向かってからだいぶ経つ。もう戻っていても良い頃だというのに。


「母さん、私少し兄さんの様子見てくる」

「僕も」

「はぁい。気をつけてね」

「変な輩もいるからな〜」

 両親の言葉に頷いてから二人で店に向かって歩き出す。眩しい。帽子をかぶってても眩しい。

「あっ」


 少し歩いたところで圭が声を上げた。視線の先をたどれば兄らしき人物が。


 兄の腕には女性が抱きつき、その二人の前にはちゃらそうな男が二人いた。



「兄さんの顔が死んでるね」

「かき氷も溶けてる」


 死んだ顔をした兄は目の前にいる男を見ているようで、たぶん見てない。その男の後ろというか、空を見ているんだろう。思考を放棄しているようだ。


「助けるべきかなぁ?」

「どうやって?」

「……」


 兄が何に巻き込まれているのさっぱりわからないので何も手出しができない。どうしたものか。

 取り敢えず静かに兄たちの方へと足をすすめる。兄はすぐこちらに気がついたが、他は気がついていないようだ。兄はこちらを見つけた途端、女に何か話しかけて、そしてこちらにやってきた。


「兄さん大丈夫?」

「何があったの?」

「ナンパに巻き込まれた」



 何をどうやったらナンパに巻き込まれるんだろうか。


「女の人助けなくて大丈夫?」

「大丈夫だろ。だって……」




「しつこいっつってんでしょ!!!!!」



 聞こえてきたのはどうやら怒っているらしい女の人の声と、カエルが潰れるような男の声。見れば女性が男の一人に回し蹴りを食らわせているところだった。


「……な? それに今日は家族で来ているそうだから、まぁ平気だろ」

「良い蹴りだね」

「痛そう」

 感想を述べていると女の人のところに大人の男女二人と小学生くらいの男子がやってきて女の人を庇うように立った。家族のようだ。


「あとは勝手に何とかするだろ。……俺はかき氷溶けたからまた買いに行くけど……二人も食べるか?」

「「たべるー」」

「そうか」



 かき氷美味しかった。




 その日は一度パーカーを着たまま足を少し海につけただけなのに結局日焼けした。すごく痛かった。

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