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脇役らしく平和に暮らしたい  作者: 櫻井 羊
中学生編
175/232

おまけのその後



「…………」

「…………」


 なぜ私の目の前に戸柄先輩がいるのか。


「あっこれ美味しいわね。間切さんも食べてみなさいな」

「えっと、あの、東雲先輩」

「ほら」

「んぐ」

 あっ美味しい。


 とあるお高いお店の一角で無理やり口に入れられたそれを咀嚼する。ビュッフェ形式のここには東雲先輩に連れて来られたのだ。そして、何故かいる戸柄先輩。


「東雲ちゃん、私帰るわね」

「えっ何言ってるんです? こんなに美味しいのに」

「え、いやだからぐっ」

 立ち上がって去ろうとする戸柄先輩の首根っこを掴んで引き戻してスイーツをその口に突っ込む東雲先輩。


「私は先輩が謝りもせず、大学は遠くにある女子大を選ぶなんて言うからこんな場を設けているというのに」

「……だから、私なんかとは会いたくもんぐっ」

「それ、先輩の憶測ですよね? 間切ちゃん先輩のこと嫌い?」

「いえべつに」

 皿に盛られたスイーツを食べながら答える。

 実は数日前、東雲先輩から事のあらましをメールで教えられていたりする。突然過ぎて驚いた。それを鵜呑みにするならまぁ、騒動当時程嫌いではない。


「……あんなことしたのに?」

「もうやりません?」

「あんな事やらない。やりたくもない」

「じゃあいいです。私は直接的な被害を被ってませんので」

「倉庫に閉じ込めたよ!?」

「トランプしてたんで、特に怖くもなんともなかったです」

「っ……」

 私の答えに戸柄先輩は項垂れた。というか脱力した。

「あの夜だって……顔色悪くなってたじゃない……」

「まぁ、私にも色々あるんですよ。別に気にしなくて良いです」

 トラウマを思い出させてくれたが、手は出されていないし、今はもうなんともない。特に問題はないな。


「先輩は気にし過ぎなんですよ。他の人間だったらともかく、間切兄妹はそこまで根に持ちませんよ」

「でも間切くん倒れたし……」

 気まずそうに私から視線をずらして言う戸柄先輩。あ。


「あれは君だけのせいじゃないけどね」

「兄さん、圭」

「お先に失礼しますっ」

「あら、どこに行くつもりなんですかねこの人は」


 兄を認識した途端席を立った戸柄先輩はまた東雲先輩によって引きずり戻されていた。

 兄と圭が私の隣の空いていた席に座る。通りで席の数が多いと思った。ところで私を挟む意味は。わざわざ私を真ん中に移動させる意味とは。


「兄さんたちも呼ばれてたの?」

「うん。この時間に来いってね」

「姉さん美味しい?」

「そうなんだ。すごく美味しいよ」

 スイーツを1つ圭に食べさせる。

 私の目の前にいる東雲先輩は楽しそうだけど、その隣に座る戸柄先輩は今にも死にそうな顔をしていた。


「俺が倒れたのは君からのこともあるけど、元々睡眠時間削って勉強したり、生徒会の仕事が異常に多かったりしたせいもあるんだよ」

「……」

「君からのメールとか殆ど写真だったし」

「ぅぐ」

「見たい」

「ん」

 本当だ。綺麗な空の写真。よく撮れている。あっ、猫可愛い。


「まぁ、精神的に追い詰められたのは本当だけど」

「……」

「で、俺に言うことは?」

「…………すみませんでした…………」

 戸柄先輩は涙目である。


「いいよ」

「は!?」

「じゃ、俺も何か取ってくる」

「僕も〜」

 そう言って立ち去る二人。ポカーンとする戸柄先輩。スイーツの甘さを堪能する私と東雲先輩。


「え? え?」

「ですから、間切兄妹は根に持たないと言ったでしょう」

「だって私追い詰めて……酷いことして」

「もう終わったことなんで」

「軽くない???」

「確かに兄は倒れましたが、あれは本人も言っていたように貴方のせいだけではありません」

 兄は私も知らない間に無理していたようですし。自業自得な部分もあるよね。今度倒れるまで無茶したら泣きわめいてやろう。


「本人が許すと、気にしないというのであれば私からは何も言いません」

 未だにポカーンとしている戸柄先輩の目を見て言う。やっぱり美人だな。


「あと、戸柄先輩チョイスのお菓子美味しかったです」

 当時は警戒していたのもあったし、流石に毎日来られたので好感度は上がらなかったが、美味しかったのは事実である。


「そう……」


 私が話し終えたと同時に兄たちが戻ってくる。二人の皿には見事に甘いものがたくさん積まれていた。


「美味しそうだった」

「つい」

「食べ切れるなら良いんじゃないかな」

「「いける」」

「そう」


 言うなり二人はスイーツを食べ始めた。二人とも甘いの好きだからなぁ。さて、おかわり……。





「…………怒らないんですか」

「ん? なんで?」

 俯いたまま言う戸柄先輩に兄が首を傾げた。

「酷いことしました」

「知ってる」

「許されないくらいのことをしたと思ってます」

「それを決めるのは俺だよ。俺は許すの。というか、もう過ぎたことだしどうでもいい」


 そういった兄は多分本当にどうでもいいと考えてる。プリン美味しい。

「姉さんこれ美味しいね」

「ね。こっちのベリーのやつも美味しいよ」

「ほら、間切兄妹は何にも気にしてませんよ」

「……いいんですか」

「いいんだよ。というかなんで敬語」 

「なんとなく」

「そう? まぁ好きにすればいいけど」

「……」


 戸柄先輩は無言のまま涙をボロボロこぼし始めた。それを見た兄と弟はピタリと固まってしまう。


「え? え? 兄さん泣かせた???」

「冤罪と思いたい」

「ほら、戸柄先輩、二人とも困ってますよ。これでも食べて泣きやんでください」

「むぐぅ」

「このチーズケーキも美味しいですよ」

「ん……」

 餌付けするように次々と戸柄先輩にお菓子を与えていく。楽しい。


 泣き出した戸柄先輩は中々泣きやまず、兄弟もオロオロしながらスイーツを与えていた。まぁ、私達兄弟は普段泣かないからな。泣いてもすぐ泣きやむし、対処法がわからないんだろう。






「では、今日はありがとうございました」

「こちらこそ」

「スイーツ美味しかったです」

「美味しかったです!」

 良い笑顔の東雲先輩と、両手で顔を覆ったまま俯く戸柄先輩にお礼を言う。とても美味しかった。


「先輩、ほら、3人とも帰っちゃいますよ」

「……改めて、すみませんでした」

「もういいよ。二度とやらないでね」

「……はい……」

「では、今日はこれで。皆さんまた学校で会いましょう。あ、戸柄先輩はこのあと私の家に連れて帰ります」

「聞いてない……」

「あはは」


 東雲先輩は笑顔を浮かべたまま、戸柄先輩を引きずって去っていった。





「……生徒会の仕事多かったんだぁ……知らなかったなぁ」

 二人が見えなくなったところで圭が無表情でそんなことを言う。

「……」

「そんなこと一言も言ってなかったよねぇ。しかも夜遅くまで勉強してたんだぁ。へぇ……」

「け、けい……?」

「……今日の夕飯兄さんの嫌いなものばっかにしてやる! 兄さんのばーーか!!」

「けい!?!」

 そういえば今日の夕飯係は圭だったなぁ。相変わらず足が速い。


 走っていってしまった圭を眺めながらそんなことを思う。スーパーで兄の嫌いなものを買い漁る気だな。


「行っちゃったよ……」

「因みに兄さん」

「ん?」

「次そんな無理したら、私は年甲斐もなく泣きわめくから宜しく。あ、ちゃんと両親にも泣きながら電話するから。仕事中だろうが何だろうが」

「肝に命じます心配かけてすみませんでした」


 さて、圭を追いかけるかな。

 


以下、軽い人物説明


戸柄:元々ヤンデレ等の素質はあったものの、ある程度常識を持っていたので婚約の話がなければ何もしなかった。行動を起こす度に実は自分の精神も削っていた。昔は変な方向にポジティブだったが現在はそうでもない。これから先、必要以上に間切兄弟と関わるつもりはない。


相良&時沢:実は何となく戸柄の事情とやりたいことを察していた人たち。


東雲:実は昔戸柄と仲良くしていた。親が面白がってこちらに引っ越す前の話。戸柄は中等部からこの学校に来た。使えるものは親でも使う。後輩大好き。


戸柄親衛隊(仮):戸柄に頼まれたから色々やった。事情は一部の人間だけ把握している。


間切梓:被害者。精神的に追い詰められはしたものの、後遺症もなく、妹弟も無事なのでもうどうでも良いと思ってる。自分のことになると怒ったりキレたりすることが殆ど無い。平気で限界まで無茶する。


間切波留:なんか巻き込まれた。兄が良いなら別に良いんじゃないかな。トラウマ再熱したけどすぐ平気になったのでそこまで気にしてない。


間切圭:特に何もされなかったけど、兄と姉を怖い目に合わせたから警戒してる。被害者である兄が何も言わないので何もしない。


一宮:軽く巻き込まれた。間切家の精神が心配だった。実は梓が無茶してるのは知ってた。止めたけど止まらなかった。


間切両親:長男の胃が心配。子どもたちにもっと頼られたい。これからはもっと甘やかす所存。絵心はない。

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