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脇役らしく平和に暮らしたい  作者: 櫻井 羊
中学生編
171/232

おまけ Side A

2年生の時の兄が精神的に追い詰められた事件についての補足みたいなもの。補足できている気がしない。読まなくても問題はないです。

「東雲さん、もしかして何かした?」


 とある日の放課後、二人しかいない生徒会室で書類を見ながら東雲さんにそんな疑問を投げかける。


「なんの話ですか?」


「戸柄」

 言葉が足りなかったらしい。短く付け足せば東雲さんはわかったようで、一度頷いてから口を開いた。


「しましたよ」


「そう。何をしたのか聞いても?」

「相手が泣くまで話あって、ついでに両親にも手伝ってもらいました」


 泣くまで。それに両親に手伝ってもらったのか。それはまた。


「君が両親に頼むとは珍しいね」

「使えるものは使う主義なので」

「そう」


 あっさりと答える東雲さんに、短く言葉を返す。


「詳しいこと聞きます?」

「聞かないほうが良い気がするんだ」


 知らないほうが良いことな気がするから。知らぬが仏とも言うし、面倒くさそうだから聞きたくない。


「そんなことないですよ。というか、当事者の一人なんですから聞いてください」

「はい」


 俺が了承すると東雲さんは資料に落としていた目線をこちらに向けた。


「とりあえず、倉庫の件の後私は戸柄先輩と6時間耐久の話し合いをしました」

「うん」

 長すぎやしないか、とは言ってはいけないんだろう。


「そして、色々と確認をしました」

「確認?」

「高校に上がる前、彼女にはある縁談が舞い込んできました。そのお相手は彼女の家よりも格上のとこの次男。断る理由もなく両親は承諾。しかしその男に数度会った彼女は絶望しました」


 突然始まったその長い話に耳を傾ける。きちんと聞くべきなのだろう。


「その男は外面は良いけれど、女癖はたいそう悪く、また暴力的な面もありました。彼女も何度か見えないところを殴られたらしいです。そして、その結婚を破棄しなければ自分に未来はないと悟った彼女は考えます」


「しかし相手はこちらより格上。しかも既にもう了承してしまっています。こちらから婚約破棄できないのです。ならば向こうからしてもらうしかない。けれど、そんな都合良くは行かない。ならばせめて自由な間だけでも好きに過ごしてしまおう、と」


「彼女は今まで隠していた感情を表に出すようになりました。ついでに異常な女の行動をネットで調べて、それを参考に行動を起こしました。こちらは悪評が広まってどうにかして相手の耳に入らないか、という淡い期待からだったそうです」


「そして、倉庫の件でうまいこと私にそのことが露呈。私からの干渉で婚約は破棄。彼女にはもう異常な行動を取る理由もないのであっさりと引き下がりました」



「なるほどねぇ」

 話の流れはわかったので頷く。お金持ちの家の子供は大変だなぁ。


「ちなみに、婚約破棄するその場にいたのですが、凄かったですよ」

「何が?」

「相手の両親の許可を得てから、戸柄先輩が相手の男を殴りました。あれはスッキリしましたね」

「……」

 強いなぁ……。


「まぁ、経緯とかその他諸々の説明は以上です。他に質問は?」

「ないかな」

「では、先程の続きを」

「ん」

 返事をして、俺は携帯を取り出す。メールの受信ボックスには未だに彼女から送られてきた大量のメールが残っている。これだけ見れば立派な異常者だ。

 そんなことを考えながら、そのうちの1つのメールを開ける。


 メール本文には画像が一枚。明るい空に浮かぶ月の写真だ。


 メールの量は異常だったが内容は最初時以外はほぼ毎回こんな感じで、殆ど内容がなかった。それが不思議だったが今ので理解できた。おそらくネットでこういった行動を取る女がいる記事を読んで、それに倣ったのだろう。しかしメールを送ろうにも何を送ればよいのかわからない。最初の頃は何とか考えていたが、ネタ切れしたんだろう。途中からは写真ばかりになった。


 大方、もう見ていないだろうと高を括ったのか。この調子だとかかってきた電話も出ないことを予想してかけてきていたな。出たとしても話すことなんてなかっただろう。もし俺が律儀に毎回出ていたらどうするつもりだったのか。しかも着拒したらしたで学校での接触がしつこくなったし。もしやあれもネットで見つけた女の行動を参考にしたのか。



 あの日の夜、俺と話していた戸柄は笑っていた。どんな気持ちで笑っていたのだろうか。





 携帯を閉じて書類に視線を落とす。もうすぐ携帯を変える予定なのでこのメール履歴なんかは全て破棄されるだろう。

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