91話
「全くフェードアウトできなかったね」
春休み、ボーリングをやりながら秋田くんはそんなことを言う。
そう言えば、結局フェードアウトできなかった。普通に会話していた。
勢い良く転がされたボールがピンをなぎ倒していく。8本倒れた。
「なんでこうも上手く行かないかね」
「ほんとに、ねっ!」
私は水を飲みながら言う。秋田くんはまたボールを投げた。
「なんで俺達あんなに気に入られてるんだろ」
「さぁ。秋田くんボーリング上手いね」
「そうかな」
「そうだよ」
私の番になったのでボールを手に取る。重い。もう少し軽いものにすればよかったか。
「俺さぁ、この間赤坂くんの家に招かれたんだけど」
ガコ、という音が響いてボールが溝に落ちた。突然の言葉に驚いて投げる方向を間違えた。なんてタイミングで言うんだ。
「何やってるの波留さん」
「君が驚かせるからだ。で、行ったの?」
「行った。広かった。凄かった」
何が凄かったんだろうか。やはり広さかな。
戻ってきたボールをもう一度手に取る。次はきちんと投げねば。
「というか、君随分と仲良くなった、ねっ!」
今度は真っ直ぐにボールが進んでいく。よし。
「まぁね。一緒にゲームやったよ」
「凄いじゃん」
「容赦無く負かしたら次を約束させられてた」
「あはは」
負けず嫌いだったみたい……と、秋田くんは呟く。そうか。赤坂は負けず嫌いなのか。年相応でいいんじゃないかな。
「あと、最近気がついたんだけどさ」
ボールを手に持ち、投げる準備をしながらも秋田くんは話を続ける。
「台風の目の部分って静かだよね」
「早まるな」
「まだ何も言ってないよ波留さん」
言わなくてもわかる。離れるんじゃなくてむしろ近づいて中心にいたら平穏なのでは、とか言うんだろう。
「やっぱり平穏ではないかな」
「たぶんね。うわ、ストライク」
「いえーい」
本当に秋田くんはボーリングが得意らしい。
「まぁ過ぎちゃったものは仕方ないし、何も起こらないことを願うばかりだね」
「木野村さんもゲームと違ってだいぶ落ち着いてるし、篠崎くんたち外部生もそこまで鬱憤をためてるようには見えない。何も起らないって信じてるよ」
気がつけば取り巻きたちは大人しくなっていて、外部生と仲良くする内部生も増えていた。
何があって取り巻きが大人しくなったのかは知らない。私が知らない場所で何かあったんだろう。
ボールを手にとってレーンの前に立つ。ストライクとか出してみたいものだ。
結局、私はストライクを何回か出したが秋田くんには勝てなかった。僅差で負けたので少し悔しい。
「楽しかったー!」
「そうだね」
ボーリングを終えて、やりきった感をだす秋田くんと電車に乗る。電車は空いていた。
「波留さん」
「んー?」
「これからもよろしく」
「こちらこそ」
もうすぐ、私達は高校生になる。
中学生編の本編はこれで終了です。だいぶ長くなってしまいました、すみません。




