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脇役らしく平和に暮らしたい  作者: 櫻井 羊
中学生編
160/232

81話 夏休み2



 夏休み終盤、私は毎年のことながら公園にやってきていた。あ。


「お兄さん、こんにちは」

「こんにちは」


 ベンチに座った鳩のお兄さんは穏やかに微笑んで私に言葉を返してくれた。お兄さんの隣に腰掛けて足元を見る。


 大量の鳩。



「今日は囲まれてますね」

「もなかはお留守番してるからね」

 なるほど。


「そういえば今年は海に行ったんです」

「へぇ。それは楽しそうだ」

「お兄さんは遊びに行ったりしました?」

「この間は知り合いの人と山登りに行ったよ」

 山頂からの景色が凄く綺麗だったと、お兄さんは携帯で撮った景色を見せてくれた。綺麗。


「海はどうだった? 楽しかった?」

「日焼けするのが嫌で基本パラソルの下にいました」

「あ~……もう日焼けをきにするとしごろかぁ。そうだよね。来年高校生になるもんね」

 納得したように呟くお兄さんの足元には相変わらず鳩が群がっている。


「他には何があった? 君の話が聞きたい」

「そうですね……」


 それから、私は家族で行った海での話をした。お兄さんは相槌を打ちながら楽しそうに聞いてくれる。



「ナンパって本当にあるんだねぇ」

「ありますよ。昔知り合いが逆ナンされてましたし」

 海で見たナンパする男性たちの話をしたらお兄さんは驚いていた。因みにそのナンパ男の一人はあまりのしつこさに女性から蹴りをもらっていた。見事な回し蹴りだった。


「お兄さんはナンパされたことないんですか?」

「ないね〜」

「そうなんですか」

 イケメンなのになぁ、とボヤいて気がつく。そういえばこの人はイケメンだ。今まで気が付かなかった。鳩にばかり目が行っていた。だって鳩の印象すごい。




 その後はまたお兄さんと他愛のない話をして穏やかな時間を過ごした。夕暮れ時になって、お兄さんがそろそろと切り出す。


「…………来年もまたこうして会えますか」


 なんとなく、気になって口に出してしまった。もうすぐ今年の夏休みは終わるから次会うとしたら来年だろうと、そう思って。

 私の質問にお兄さんは困ったように笑った。





「無理かな」





「……お兄さん、そういえば社会人でしたよね」


 私と出会ったときは確か受験生……おそらく中学3年生だった。あれからもう9年。順調に行っていればお兄さんはもう既に社会人なのだ。

 そら忙しいかと、呟く。名前も知らない人との、約束もない関係だ。もともと容易く終わってしまうものだったのだから仕方のないことだ。


「うん。来年からはもうこうやって会うことはできないと思う」

「そうですか。寂しくなりますね」

「……」

「……」

「手、出して?」

 言われた通り手を差し出すと飴が2つ乗せられた。


「きゅうり…………なす……」

「野菜シリーズです」

「oh……」

「元気でね」

「お兄さんこそ。鳩に埋もれてしまわないようにしてください」

「鳩に言って」

「むちゃな」

 少し笑いながら二人で歩く。そうして、いつも別れる場所でお兄さんに見送られながら家に向かって足を進め……。




「またね、間切さん」




 微かに聞こえた言葉に驚いて思わず足を止めて振り返った。しかしそこにはもうお兄さんも逆方向に歩きだしてしまっていて、声をかけられる雰囲気ではない。




 私はお兄さんに名前を教えていないはずなのに、どうして知っているんだろうと疑問に思いながらも家路を急いだ。それに、会えないのに「またね」とはどういうことだ。


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