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脇役らしく平和に暮らしたい  作者: 櫻井 羊
中学生編
159/232

80話 3年夏休み


 日差しの強い夏の日、買い物を終えて歩いていると前方から見知った人が歩いてくるのが見えた。


 少しうつむきがちに前方から歩いてくる女性は、久々に見かける茜さんだった。




「……あれ、間切ちゃん!」

「茜さん、お久しぶりですね」


 日傘をさしている茜さんは私を認識すると小走りでこちらに寄ってきた。上品なワンピースを着た茜さんはそういえばこの人良いところのご令嬢だったと気づかせる。


「久しぶり! 元気?」

「はい。茜さんもお元気そうで何よりです」

「元気だけが取り柄だもの」

「どこかへ向かう途中だったんですか?」

 道の端によって久々に茜さんと会話を交わす。


「ううん。暇だから散歩してたの。間切ちゃんは? 買い物?」

「はい。これから兄弟とホットケーキ作るんです」

「ホットケーキ?」

「家にホットケーキミックスが大量に余ってて……それを消費するために」


 買い物に来たのはトッピングなどに使う材料を買うためだ。ついでに夕飯の材料も。

 私が袋を掲げて言えば茜さんはキラキラと目を輝かせた。


「……大量にありますし、もし良ければ食べますか?」

「いいの?!」

「はい」

「是非!!」


 子供のようにはしゃぐ茜さんと二人で家へと向かう。大量にあるから一人増えても問題はないが、取り敢えず兄にメールはしておこう。








「ふわぁぁぁあ〜!」


 家につくと、既にテーブルの上にはふわふわのホットケーキが置かれていた。それを見た茜さんが歓声を上げる。


「え、これ誰が作ったの?!」

「兄さんですよ。茜さんこんにちは」

「圭くんこんにちは! 間切くんが作ったの!? 凄い!!」

「やり方さえわかってしまえば誰でも作れますよ。トッピングも色々用意していますからそちらもどうぞ」

「いいの!?」

 キッチンから顔を出した兄がどうぞと言えば茜さんは手を洗ってから席についた。買ってきたトッピング類をテーブルに並べる。


「もう全部焼いたの?」

「今最後のを焼いてる。おかわりもあるぞ」

「そう。兄さんが作るホットケーキ久しぶりだなぁ」

 特に手伝うこともなさそうだったので私も席につく。

「良い息抜きになったよ」

 最後の一枚を皿に出して、それを脇においてからエプロンを外して兄も席につく。


 生クリームとチョコと……あとイチゴとバナナ乗せるかな。


 各々好き放題トッピングを乗せてからホットケーキを食べる。相変わらず美味しい。


「美味しいっ!」

「それは良かった」


 茜さんはそれはもう美味しそうにホットケーキを食べてくれた。兄も心なしか嬉しそうだ。うん。自分が作ったものをこんな風に喜んで食べてもらえたら嬉しいよね。



「ご馳走様でした!」

「お粗末さまでした」


 ホットケーキを食べ終わって洗い物をやろうとしたら圭に取られて兄とともにリビングで休めと言われてしまった。茜さんも勿論リビングに追いやられた。


「それにしても茜さん綺麗ですね」

「そう?」

「はい」

「ありがと! 間切ちゃんは優しいな〜。家族以外でそんなこと言ってくれるの間切ちゃんくらいだよ〜」

 隣に座った私を抱きしめて頭を撫でる茜さん。私は本当のことを言ったまでだというのに。


「お世辞抜きで茜さんは綺麗ですよ。兄さんもそう思うでしょ」

「茜さんは凄く綺麗だと思いますよ。そのワンピースもよくお似合いです」

 にこりと笑みを浮かべてさらりと茜さんを褒める兄。笑顔は外向けだが言葉は本心である。兄はあまり嘘をつかない。


「……そっかぁ」


 茜さんは更に強く私を抱きしめた。茜さんらしくない弱々しい声が耳に届く。




「今日はありがとうね! お邪魔しました!」

「また来てください」


 帰宅するという茜さんを玄関でお見送りをする。すっかりいつも通りになった茜さんは笑顔だった。

 やっぱり笑顔が一番だな。

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