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脇役らしく平和に暮らしたい  作者: 櫻井 羊
中学生編
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79話 見舞い4



 だいぶ落ち着いてきた秋田くんと別れ、帰路につく。赤い夕日が眩しく道を照らしていた。



 秋田くんは最期を家族に看取られた。



 羨ましいなと、思う。



 私の最期は暗くて寒くて冷たくて、そして独りだった。運が悪いことに私の意識があるうちは誰も人が通らなかった。まぁ、滅多刺しにされたからあまり長くは保たなかったけど。


 しかも最後に見た人間が私を殺したあの男。不気味に笑って、あの目を向けてきたトラウマ男。最悪だ。



 せめて、せめて、最後に家族の顔を見たかった。泣き顔でもいい。あんな男の顔より、大事な、大切な家族の顔を目に焼き付けたかった。


 だって家族や友達の顔も声ももう思い出せないのに、あの男だけは鮮明に覚えている。



 覚えていたくない。忘れたい。でも忘れられない。


 最悪だ。あの男だけは許さない。



 暗くて寒くて辛い、あの夜を今でも思い出す。


 暖かくて、自分のために泣いてくれる家族がいて、そんな中最期を迎えられた彼が羨ましい。


 けれど、想像でしかないけれど、彼だって苦しかったし辛かったはずだ。



 私は割とすぐ死んだし、生きてるときは健康そのものだったから、長期に渡って病と戦う辛さを知らない。


 自分の身体が徐々に弱っていって、自分が長くないと悟り、日々死に近づいていく怖さを知らない。


 大切な家族の涙を見ながら最期を迎える辛さも知らない。


 そして、何も知らないまま数年過ごし、何も知らない自分が構成されたあと前世の記憶が蘇ることによってもたらされる苦しみも、戸惑いも、知らない。



 知らないし、わからないことだらけだ。



 私も苦しかったが、秋田くんも私とは違うベクトルで苦しんでいるのだろう。きっと病死も刺殺されるのもどちらも辛い。


 ……あぁでもやっぱり、あんな寒くて辛い死に方は二度とゴメンだなぁ。




 独りきりの帰り道で、少し泣きそうになった。

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