73話 3年体育祭2
午前の部のリレーを終えて、昼は家族、そして一宮一家と食べていた。お稲荷さん美味しい。
「そういえば波留ちゃん、女の子を保健室に連れて行ってあげてたね」
「んむ?」
「あぁ、なんかお姫様抱っこしてたな。目立ってた」
目立ってた。まじか。
「姉さんかっこよかったよ!」
なるほどわかった。取り敢えずすごく目立っていたようだ。まぁ、3人とは同じ組なので近い位置にはいただろうが、それでも競技中の話だ。競技が続く中、こっそり後ろの方でなされていた出来事のはずだった。なぜ目立っているんだろう。
「でも姉さん、なんでお姫様抱っこしてたの?」
「足怪我してたから」
「おんぶでもよかったんじゃない?」
「あっ」
それもそうだ、と驚いて箸を止める。その手があったか。
母がお茶を注いでくれたのでそれを飲んだ。冷たくて美味しい。父が作ってくれたデザートを食べ、一息ついた私は立ち上がった。そろそろ視線が痛い。
「じゃ、私はちょっと鬼ごっこしてくる」
「今年も?」
「今年も」
兄に聞かれたので簡潔に答えながら靴紐を結ぶ。まぁ、すぐ校舎に入るつもりだが。校庭では人の目が多すぎる。
「怪我しないようにするのよ」
「あまりやんちゃしすぎてはいけないよ」
「はーい」
両親の言葉を流して、私は早足で移動し始めた。
家族と、一宮さんにはこの不本意ながら毎年恒例となってしまった鬼ごっこのことを話している。報告したとき、もれなく全員から「仲良しだね」と感想を頂いた。周りから見ると仲良しに見えるらしい。凄い。仲良くするつもりはあまり無いのに仲良しになっているし、これから自然とフェードアウトする予定なのにできる気がしない。
「今年は屋上なんだな!」
「……っ…………おぇ…………」
「え、なんで間切そんなにクタクタなんだ!? 大丈夫か!?」
大丈夫ではない。どこなら見つからないか、走りながら探して、本当に隈なく探していたら結果屋上にたどり着いてしまったのだ。校舎中を走り回ったおかげで脇腹は痛いし体力も底をつきた。それに対して赤坂といえばとても元気そうである。若いって良いね。
「み、水飲むか!? あ、スポドリしかない! スポドリでいいか!?」
「いや、自分のある……………………カメラしか持ってない」
自分の所持品がカメラしかないことに軽く絶望した。屋上からの風景撮ろう。
無心で屋上からの風景を撮っていればそんな私を赤坂がじっと見ていた。何故見るのか。何か話しかければよいのでは。
「……どしたの」
「いや、間切って本当に写真撮るの好きだなぁって」
「んー、まぁ、そだね。はいピース」
「いえーい」
カメラを向けたらピースしてくれた。ノリが良くて助かる。
「そういや間切またお姫様抱っこしてたな!」
「見てたのか」
「マサと木野村と一緒にな。木野村が『お姫様抱っこ……憧れますわね』って言ってたけど」
あぁ、少女漫画とかでよくあるシチュエーションだもんな。
「あの細腕で誰かを持ち上げるのは無理だと思うんだよな」
真顔でなにを言っているんだろうかこの子は。
「はぁ……?」
「いや、だってどう考えてもあの腕じゃ人間は持ち上げられないだろ? やっぱり間切みたいに鍛えなきゃ無理だよな?」
「別に鍛えてるわけではないが。あと、木野村さんは持ち上げる方じゃない。持ち上げられる方に憧れてるんだ。たぶん」
「え? じゃあ俺が持ち上げればOK?」
「そうなんじゃないかな」
たぶん、もっと雰囲気とか色々考えなければならない事はあるだろうけど。
「わかった! あとでやってみる!」
「君、持ち上げられるの?」
「鍛えたからな! マサも持ち上げられたから大丈夫だろ!」
辻村……可哀想に。お姫様抱っこされたのか。
私は辻村へ同情しながら、昼休みを過ごした。
今年は私の組が優勝した。全力を出したかいがあったというものだ。喜ぶ圭が本当に可愛い。




