62話 2年学園祭2
学園祭2日目。日曜日である今日はこの学園祭もとても賑わう。老若男女様々な人間が訪れ、学園祭を楽しむ。一般開放されているため近所の子供なんかもくるのだ。
「ままぁ……」
今、何故か私の足にしがみついている子供のように。
因みに私は母親ではないし、この子供のことも初めて見た。初対面である。
「えっと……お嬢さんお名前は?」
「きよちゃん」
「そっかぁ。きよちゃん今日は誰ときたの? お母さん?」
「まま……まま、どっかいっちゃったの」
……なるほど迷子か。
奇遇だな。私も迷子だ。というか、早苗ちゃんたちと逸れたところだ。仲間だね。
「じゃあ本部の……えーっと…………なんか真ん中らへんに行ってお母さん呼んでもらおうか」
この子は見たところ幼稚園生くらいだろう。幼稚園生ってどのくらいの難しさなら理解できるんだろうか。長らく幼稚園生と関わっていないのでわからない。取り敢えずそれっぽく噛み砕いて言おう。
私の提案にきよちゃんは小さく頷いた。歩き出したいがこの子は小さい。この人混みでは流されてしまうだろうから抱き上げるとしよう。
「抱っこするね」
「おねえちゃんちからもちね」
「ありがとう」
きよちゃんを抱き上げて本部もとい職員室へと足を進める。なんかやたらと視線を集めている気がするけど気のせいだろう。……いや、まぁ中等部の学生が小さな子どもを抱き上げて歩いてたら目立つか。仕方ない。
「おねえちゃんそれなぁに?」
「わたあめ。おねえちゃんの好物だよ」
「ふわふわしてるやつ!」
「そうそう。ふわふわ」
「きよちゃんはねぇりんごさんがすき」
「りんご飴かな」
「うん。おいしいの〜」
すっかり泣きやんだきよちゃんとそんな会話をしているうちに本部へと辿り着いた。そこには見たことのない女性が一人いた。
「ままっ!」
「きよちゃん!」
どうやらお母さんだったらしい。きよちゃんを下ろせばタタタッとその女性のもとへと走っていった。可愛い。
お母さんときよちゃんがお礼を言い、去っていくのを見送る。すぐに見つかってよかった。
「間切はいま一人なのか?」
「篠崎くん。君も迷子?」
「んなわけあるか。って、お前迷子なの!?」
「早苗ちゃんたちと逸れた」
本部にいた篠崎にそう言えば若干引かれた。これでもマシになった方だぞ。
「その年で迷子……」
「……まだ子供ですし……」
中学生はまだ子供だと思う。私だって好きで逸れているわけではないし。気が付いたら逸れているだけだ。何故だろう。
「篠崎くんは迷子じゃないなら何してるの? 店番?」
「ここ店じゃねぇよ。手伝い。俺は回りたいとこ回ったし」
「え、とても良い子」
「そりゃどうも。お前も手伝う?」
「……ここにいたら早苗ちゃんたち迎えに来てくれるかな」
「連絡しろよ」
それもそうだ。
私は携帯で早苗ちゃんに電話をかける。ワンコールで出た。とても早い。
『波留ちゃん? 今どこ?』
「本部で」
『一歩も動かないでね?』
「アッハイ」
私が返事をするとツーツーと、虚しい音が携帯から聞こえてきた。一歩も動くな、か。中々難しいことを言う。
「一歩も動くなって言われた」
「バレないだろ」
「まぁ邪魔になる位置には居ないし、動かずに待つよ」
「忠犬波留公?」
「なんでそうなる」
一歩も動かずに待っていたら迎えに来た早苗ちゃんたちに驚かれた。




