じゅうさん 一年夏休み 2
「一宮宏和です。よろしくね」
兄がはじめて友人を家に連れてきた。
「間切波留です。よろしくお願いします」
「……圭です」
圭は人見知りを発動したようだ。私の後ろに隠れたまま出てこない。
「宏和、あんまり俺の家族を怖がらせるなよ」
「俺なんもしてないよ!?」
「もう存在が怖いんじゃないか?」
「酷いっ」
確かに、一宮さんは年齢に比べて体躯が良くて少し怖いかもしれない。
「よし、二人とも。出かけるぞー」
「どこに?」
「水族館」
おお、水族館。
夏休みは自由な時間が多くて良いが、やることがない人間からすれば時間を持て余す期間である。私も宿題は日記以外終わらせてしまったし、やることがない。圭に至っては宿題もないし、毎日暇そうにしていた。うちは共働きなので昼間は親もいないし、親が居ないとまだ幼い私達は遠出が出来ない。
兄はどうやらいくつかの条件付きで子供だけの遠出を許してもらったらしい。
「水族館っ! お魚いっぱいいるところ!?」
「そうだぞー」
「やったぁ!」
水族館に行ったことのない圭は凄くはしゃいでいる。可愛いなぁ。そういえば最近魚図鑑をよく眺めていた気がする。
「波留ちゃんは嬉しくない?」
「いいえ。楽しみです。わざわざありがとうございます」
「ならよかった。俺も水族館行きたかったんだよねー。今日行くところはイルカのショーが凄いって有名なんだよ」
「イルカ」
イルカのショーって混んでるから前世ではあまり見なかったんだよね。どんなだろう。
荷物の準備をして玄関に行くと三人は既に靴を履いて待っていた。そして圭は兄に手を掴まれてた。
「お待たせしました……?」
「これが条件の1つな。『手を繋いで離さないこと』」
迷子防止ですね。なるほど。
「波留ちゃんは俺とねー」
「はい」
靴を履いて一宮さんの手を握ると一宮さんが私の手を凝視してきた。なんだなんだ。
「梓! 波留ちゃん手ぇちっちゃい! 折れそう!」
「折れないから安心しろ」
確かに私の手は一宮さんと比べると小さいけども。
「というかしっかり握っとけよ。波留は目を離すとすぐいなくなるからな」
「えっ、しっかりしてそうだけど」
そうだそうだ。私はしっかりしてるぞ。兄さんは私をなんだと思ってるんだ。
兄さんに抗議の目を向ければ呆れた顔をされた。
「お前……1学期の遠足で迷子になったらしいな」
「え!? 遠足で!? 先生の目を掻い潜って!? 凄いね!」
そういやそうだったわ。忘れてた。私前科あるじゃん。
「だからちゃんと握っといてくれ」
「わかった」
「波留と圭もちゃんと手を握っとくんだぞ」
「「はーい」」
いざ、水族館へ。