60話
朝早く、私は母と並んでお弁当を作っていた。弁当を作る人は順番で、今日は私と母が担当なのだ。
ところでだ。最近私は兄に作ってもらった弁当が尽くデコ弁になるという惨事に見舞われている。何故かと兄に問えば「楽しい」と帰ってきた。なるほど。ストレスマッハな兄の少しの楽しみになっているのなら幸いである。
が、その弁当箱を開けるたびに周りから視線を集め、私が恥ずかしい思いをしていることに変わりはない。なのでちょっと復讐しようと思う。
兄の弁当もデコ弁にしてやろう。
「似た者兄妹ね」
「そう?」
父の弁当を詰めている母とのんびりと会話する。兄の弁当はちゃくちゃくと可愛らしくなっていっている。あとは……。
「料理上手な息子と娘を持って幸せだわぁ。でも母としての面子がないわ」
「私母さんの料理大好きだよ」
「あら嬉しい。私も波留の作る料理好きよ。特にカレー」
それは嬉しい。今度また作るとしよう。
そんな朝を過ごした日の昼休み。私は裏庭に来ていた。少し肌寒くなってきたな。
「波留ちゃーん」
「一宮さん」
暫くすれば弁当を持った一宮さんがやってくる。一宮さんと合流した私はそのまま東屋へと足を進めた。一宮さんとは事前に連絡を取って、今日一緒に昼ご飯を食べることになっている。
「兄さんはどうでしたか」
「あの子とその周りの人に捕まってるよ。僕は抜けてきた」
そうか。なら。
「……もう少ししたらここに来ますね」
「え?」
東屋にたどり着いて、適当な場所に腰を下ろす。暫く一宮さんと会話していれば兄が走ってやってきた。
「波留! お前!!」
「ほら」
「え、梓どうしたの?」
ダッシュでやってきた兄の手にはお弁当。包み方が今朝とは違うので一度開けたのだろう。
「弁当!!」
「可愛いでしょ、ねこちゃん」
「えっ」
「可愛いけども!」
兄の弁当はデコ弁かつ、可愛らしいねこちゃんを作っておいたのだ。きっとみんなの前で開けて、すぐに閉めて「妹のと間違えた」とでも言って来たんだろう。ちゃんと弁当箱にここの場所をメモした紙を差し込んでおいた。
少し疲れた様子の兄も私の隣に腰掛けて、改めてお弁当を開く。可愛らしいねこちゃんがいる。
「これ、波留ちゃんが作ったの?」
「そうですよ」
ちなみに私の弁当は普通である。
「恥ずかしかった……」
「……えーと……」
「でも、お陰でここに来れたし、静かにお昼を過ごせるでしょ」
なんとなしに言えば兄が困ったように笑いながら頭を撫でてくれた。
「にしても俺ここ初めて知った」
「僕も」
「穴場です。これから寒くなるんでちょっと使いづらいですけど、しばらくは使えますよ」
「……波留」
「ん?」
「良い子いい子」
何やらやたらと撫でられるが気持ちいいので甘受する。もっと撫でても良いぞ。




