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脇役らしく平和に暮らしたい  作者: 櫻井 羊
中学生編
138/232

59話


 学園祭の準備が着々と進んでいるとある日の昼休み。私は人の少ない廊下を歩いていた。音楽の教師に楽器を運ぶ手伝いを頼まれたのでそれをこなしていたのだ。チューバとか授業で使うのかね。

 一人寂しく歩いていれば前方に人影が……戸柄千依が見えた。思わず足を止める。


「…………」


 戸柄千依は穏やかに笑いながら、何かをゴミ箱へと入れた。その動作には何もおかしいことはない。ない、が。



 捨てたものが、すごく見覚えのあるものだったのだ。




 戸柄千依が去って行くのを見送ってから、そのゴミ箱に近づく。中を覗けばそこには見慣れた弁当箱。兄のものだ。虐め、という単語が頭をよぎるがおそらく違う。いや、ある意味いじめだけど。きっと自分が持参した弁当を食べてもらうために捨てたんだろう。なんて非常識な。


 あまりしたくはないが、ゴミ箱から弁当箱を取り出す。弁当箱を持って帰らねば両親が勘付く可能性がある。それは兄にとって喜ばしいことではないだろう。それに、今日の弁当は母と圭が作ったものだ。捨てるのは忍びない。弁当を包んだ布ごと捨ててくれてよかった。若干の抵抗はあるが、まぁ食べられなくはない。しかし私の分の弁当はどうするかな。二個は食べられないぞ。


 弁当箱を片手に悩んでいるとふと、人の気配を感じたので顔を上げ、あたりを見回す。一宮さんが顔を青くしてこちらを見ていた。恐らく、戸柄千依の後をつけてきたんだろう。



「は、波留ちゃん……」

「あぁ、別に兄が捨てたとは思ってませんよ。というか捨てられるとこ見てましたし。ところで一宮さん」

「あ、はい」



「今日ってお昼ご飯持ってきてます?」







 一宮さんと二人で屋上へ上がる。彼の手には私の分の弁当箱が。一宮さんは今日、購買で買う予定だったらしいので私の弁当をあげた。兄は……今日だけ我慢してもらおう。


「僕がそっち食べるよ?」

「流石にゴミ箱に入れられたものを人様には食べさせられませんよ……」

 私でも抵抗があるのに。

 屋上には誰もおらず、広々とした空間でのんびりとご飯を食べられそうだった。

 適当な場所に腰掛け、弁当を開ける。うん。中身は無事。


「……波留ちゃん」

「?」

 弁当箱を開けた一宮さんが真剣な顔で私に話しかけてくる。なんだろ。



「お弁当少なくない? これ足りるの?」

「………………足りますよ」

 真剣な顔で何を言ってくるかと思えば。いつもあなたと食べてる時もそのくらいしか食べてないです。


「で、兄は無事ですか、精神的に」

「いきなりなにかな」

「戸柄先輩に付きまとわれてるんでしょう」

「知ってたんだ」

「相良先輩に聞きました。……それに、兄のケータイを少し拝見させてもらったら、まぁ着信受信の多いこと。まるでストーカーですね」

 食べながら、他に誰もいないのだからと戸柄先輩の話を進める。そろそろ兄の体調が心配だ。兄はすぐため込むから。顔色も悪いし、胃薬と仲良くなっていそう。ストレス源を排除することは私にはできないからな。困ったものだ。


「ストーカー……ねぇ。否定はできないかな。梓は、この際言っちゃうけどもうけっこうギリギリだと思う」

「ギリギリ……」

「生徒会長としての仕事も多いし、彼女からの接触も多くて結構参ってるみたいなんだよね。最近はお昼もまともに休めてないよ」

「おやまぁ」

「彼女も、梓の好感度上げたいなら真面目に生徒会に出たりすればいいのにね」

 本当にな。

 どうやら兄と仲の良い一宮さんにも被害が出ているらしく、彼の表情は重い。

「梓に近づけば睨まれるし、怖いし……」


 私を睨む男の目を思い出した。




「波留ちゃん?」

「……………………何でもありません」

 深呼吸をして、呼吸を整えてから返事をする。危ない危ない。またおかしくなるところだった。

「でも顔色悪いよ? 具合悪い? 保健室行く?」

「大丈夫ですよ。……一宮さん、気をつけてくださいね。相良先輩も言っていましたが、ああいった人間は何をするかわかりません。貴方に危害を加える可能性もあります。用心してください」

 私の二の舞いにはならないでくれと、心の中で付け足す。

「わかった。波留ちゃんの方は? 何もされてない?」

 心配そうな表情で一宮さんが聞いてくる。


「お菓子くれました」

「え」

「美味しかったです」

「え」

 私が言えば一宮さんは固まってしまう。どうしたんだろうか。


「餌付け……?」

「おそらく」

「好感度は?」

「特に上がりませんでした」

「そっか。ごちそうさまでした」

「ごちそうさまでした。一宮さんそれで足ります?」

「うーん、まぁ何か買うよ。もともとそのつもりだったし」

「そうですか」

 やはり私のサイズの弁当では足りなかったようだ。申し訳ない。


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