56話
「……さん!」
「姉さんっ!!」
とても重い。
身体にのしかかる重みと、私を呼ぶ声に起こされ目を覚ます。圭が泣きそうな顔をしていた。
「……べっど」
なにやら重いと思ったのは圭が私の身体に体重をかけていたかららしい。重い。あと何故私はベッドにいる。いつベッドに入ったっけ。というか今何時……。
体を起こした私に抱きついて離れない圭の頭をなでながら状況を整理する。何もわからない。
「波留起きた?」
「母さん」
「なにか身体に異常は?」
「何もないけど……え、私何かあった?」
部屋の中に入って私の顔を心配そうに覗き込む母に尋ねる。
「いきなり倒れたのよ。……大丈夫?」
あぁ、思い出した。あいつを思い出したんだ。……もう10年以上経つのに意外と鮮明に覚えているものだな……。嫌な事ほど中々忘れないものだ。
なんとなく痛い気がする腹部を撫でる。ここには茜さんを庇ってできた傷跡しかない。あの男につけられた、私が死ぬ原因となった傷はない。
「顔色悪いわね……明日は学校休む?」
「大丈夫……え、待って。今何時?」
「夜の10時」
「寝ます」
「何かあったら呼びなさい。携帯でいいから。いい?」
「うん」
母は優しく私の頭をなでた。
「圭、あなたももう寝なさい。寝坊するわ」
「今日は姉さんと寝る」
んん???
私に抱き着いたままの圭は離れる気はないらしく、ぎゅうっと更に腕に力を込めた。痛い痛い。内臓飛び出そう。
「……兄さんは死にそうなくらい顔色悪いし、姉さんは倒れるし……やだ。離れない」
「心配なのはわかるけど……」
「母さんいいよ。圭、ちょっと狭いけどいい?」
「いい……」
ベッドの端によって圭を招き入れる。狭い。すごく狭い。まぁベッドは一人用だもんね。仕方ない。
「波留がいいならいいけど……」
「たまにはいいよ。おやすみ母さん」
「お母さんおやすみぃ……」
「二人ともおやすみ」
そう言うと母は部屋の電気を消して、出ていった。
圭が私に抱き着いてくるのでそのまま寝る態勢にはいる。まぁ寝れるだろ。
朝起きたら二人してベッドから落ちていた。壁際で寝ていた私まで落ちるとは思わなかった。




