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脇役らしく平和に暮らしたい  作者: 櫻井 羊
中学生編
134/232

55話



「猫の手も借りたい」


 生徒会室で、胃を抑えながら兄がそんな言葉を零した。そんな兄の目の前の机には各クラス及び部活の出し物の詳細が積み上げられている。


「兄さんどうしたの?」

「まだ予算案を出していないクラスへの取り立てと体育館を使う出し物団体の出演時間、順番の調整、未だに備品の数の申請を出していない団体への催促、何故か今になって出し物変更を行おうとする団体への説得、校内の装飾についての草案作成、先生方の手伝い…………人数が足りない」


 兄の顔が死んでいる。


「あー……取り敢えず兄さんは休んで。顔色がやばい」

 今にも死にそうな顔色だ。どうにかして休ませねば。というかこの顔色のヤバさはたぶん学園祭だけじゃないな。私のところにもほぼ毎日来ているし、あの人のこともあるんだろう。


 自身の目の前に置かれた去年までの校内の装飾を確認しながら兄をなんとか説得する。


「取り立て関連には私が出向きます。そのほうが話もスムーズに行く可能性が高いですし」

 兄の話を聞いていたらしい東雲先輩が立ち上がった。生徒会副会長、銀杏会所属となれば殆どの人間を黙らせられるだろう。心強い。


「頼んだ……」

「会長にはこういうの向きませんものね」

 兄は基本優しく接してるからな。そのスタンスを崩さずに取り立ては難しいだろう。たぶんなめられてる。







 完全下校時刻まで生徒会の雑務をして、兄弟と三人で帰宅する。最近日が沈むの早くなってきたな。


「兄さん顔色悪いけど大丈夫?」

「そんなに悪い?」

「すっごく。なんかねぇ、今にも死にそう」

「……」

 兄が「え、まじで?」みたいな顔でこちらを見てくる。否定はしない。


「今日は早く寝ることをおすすめするよ」

「そうする……」


 その後、家に帰って珍しく早めに帰宅できていた母が作った夕飯を食べて、風呂入って、兄はさっさと寝た。寝る前に勉強しないの珍しいな、なんて思いながらリビングで本を読んでいると兄の携帯がテーブルに置かれていることに気がつく。リビングに置きっぱなしとは珍しい。充電器は兄の部屋だし、持っていくべきだろうか。


 兄の携帯を眺めながら考えていると、それが突然振動し始めた。マナーモードにしてあったのか。それにしても長い。電話だろうか。


 ちらりと画面を見れば「戸柄千依」と名前が表示されていたので放置する。これで一宮さんとかだったら出たけど、流石に彼女からの着信には出ない。



 しばらくすると振動は止まり、携帯は静かになった。ちょっとした好奇心から、私は兄の携帯を手にとって画面をいじった。ロックはかかっていない。着信履歴は……。



「……」


 一面、「戸柄千依」という名で埋まっていた。嫌な予感がしてメールの受信も確認する。こちらも殆ど彼女からのもので埋まっている。



 ゾッとした。体が急速に冷えていく。呼吸が浅くなる。脳裏に、あの子を苦しめて、私を殺した男が過る。なんだこのメールや電話の量は。まるであの男じゃないか。







 男の声が聞こえる。


 不気味な笑みが、憎しみのこもった目が私に向けられている。


 狂った男の手に握られた刃物が私に向けられている。






 身体が痛い。無いはずの、傷が痛む。












 圭の「姉さん」という叫ぶような声を最後に、目の前が真っ暗になった。

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