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脇役らしく平和に暮らしたい  作者: 櫻井 羊
中学生編
124/232

45話

「間切」


 進級してから暫く経ち、新しいクラスにも慣れて来た頃、今年は違うクラスになってしまった篠崎が教室の扉から顔をのぞかせた。呼ばれたのでそちらに行く。


「どうしたの?」

「今日の放課後生徒会室に来てくれって」

「わかった。わざわざありがと」

「まぁ隣だし。もうクラスには慣れた?」

「そこそこ。殆ど知り合いだからね。そっちは?」

「なーんか、居心地悪いんだよな」

 確か隣のクラスには赤坂とその取り巻きが多数いたはずだ。そいつらに目をつけられたか。うちのクラスには比較的大人しい子が集まっているから平和なんだけど。


「何かあったら誰でもいいから相談しなよ」

「そうする。じゃ、また後で」

「んー……ん?」

 篠崎と別れて席に戻ろうとしたら何故か辻村と目があった。どうしたんだろう。

 まぁ気にしても仕方がないので席に戻る。席にはニヤニヤしてる秋田くんがいた。早苗ちゃんたちはどこへ行ったのか。


「仲良いね〜」

「……何か巻き込まれそうになったら容赦なく君を道連れにする」

「何もないといいなーー!」

 何もないと良いね。

 秋田くんと話していると二人が戻ってくる。何やら白熱する漫画トークを繰り広げていたのでそれを生暖かい目で秋田くんと見守った。





 放課後、篠崎と生徒会室に行くとそこには遠い目をした兄がいた。どうしたんだろうと不思議に思い「大丈夫?」と声をかけると兄は疲れきった顔で笑った。


「大丈夫。ちょっと疲れてるだけだよ。で、二人にはこれを見ておいてもらいたくて」

 渡されたのは体育祭関連の書類。競技についてとか、飾り付けとか、まぁその他諸々。去年はほとんど手伝わなかったもんなぁ。


「それ読んでおいてね。今年は手伝ってもらうことになると思うから。とは言っても体育祭は体育委員が中心となってやるものだから、そこまで忙しくはないよ」

「わかりました」

「はい」

 受け取った書類を鞄にしまう。家に帰ったら読もう。

 鞄に仕舞っていると生徒会室の扉がガチャリと開いた。



「間切ちゃんいるー?」



 そう言って扉を開けて入ってきたのは相良先輩だった。どうしたんだろう。


「います」

「本当だ」

「私に何か用事ですか?」

 私の方へ歩み寄って来る相良先輩に聞けば彼は兄の方を一度見て、私を見て、ニヤリと笑った。そして私の手を握る。なんだろう。




「ナンパ」



 語尾にハートが付きそうな口調で言い放ち、相良先輩は私を引っ張って生徒会室を出た。



「は!? ちょ、待っ!!!」


 兄の焦ったような、怒ったような声が生徒会室から聞こえる。対する相良先輩は今にもスキップしそうなくらい楽しそうだ。


「ナンパって……どうしたんですか?」

「今日暇? お茶しよ〜」

 貴方一応受験生ですよね。まぁ暇だし良いけど。



 連れて行かれたのはなんてことのないファミレスだった。


「おう、待ってたぞ」


 店の中に入ると相良先輩は店員に「連れが先に入ってるんで」と言って更に足を置くに進めた。そして向かった先にはウチの制服を着た黒髪短髪眼鏡の男子が座っており、相良先輩を見つけると軽く手を上げた。誰だ。


「連れてきたよー」

「ありがとよ」

 相良先輩は男の人の隣に座り、私はその対面に座らされた。え、なにこれ。面接か何か?


「間切さんこの目つきが悪いのは時沢凛太郎。私の幼馴染で去年の新聞部部長」

「そうなんですか。……生徒会に所属してます、間切波留です」

「時沢凛太郎です」

 私が頭を下げれば時沢先輩も頭を下げてくれた。顔はちょっと怖いけど良い人なんだろう。



「おい当麻」

「んー?」

「お前こんな良い後輩困らせてたのか」

「えっ、今それ気にいっつぁ!」

 挨拶をして、顔を上げると時沢先輩は真顔で相良先輩に話しかけた。そして相良先輩はいきなり顔を歪めた。……足でも踏まれたかな。


「当麻が迷惑をかけたな」

「いえ、私はあまり……」

 主に兄と篠崎が相良先輩を探しに行っていたし、私はあまり迷惑をかけられていない。

「そうか……」

「私……踏まれ損じゃない……?」

 相良先輩はまだ痛いのか机に突っ伏していた。


「ところで、私はなぜここに連れてこられたんですか?」

「それはオレが頼んだんだ」

 時沢先輩の言葉に首を傾げる。私はこの人と接点があっただろうか。


「新聞部のことで迷惑をかけたからな。お詫びだ。何か好きなのを頼んでくれ」

「私は何もされてませんが……」

「新聞部に入って画像漁ったり、こいつを突き落とした犯人を捕まえたりしたらしいな」

 後者はともかく前者はそれだけ聞くと私がとんでもない曲者みたいに聞こえるな。なんでだろう。


「綺麗な写真が多くて目の保養になりました……」

「写真はオレが撮ったものが多いから、そう言われると嬉しいな」

「そうなんですか」

「凛太郎ね、間切さんのことが気になるんだってー。あれかな、一目惚れみたいっっっっ!!」

 ……また踏まれたのかな。

 蹲って悶絶する相良先輩を時沢先輩は全く気にしない。強い。


「甘いのは好きか?」

「好きです」

「じゃあこの辺なんてどうだ。これ期間限定だぞ」

「……美味しそう」

「そうか」


 その言葉と同時にピンポーンという間の抜けた音が響いた。え、今呼び出しボタン押した?

 私の困惑をよそに店員さんがやってくる。まじで呼んでたよ。


「この期間限定のクレープと、あとこのチョコのやつ。当麻、お前どうする」

「ラズベリーのやつ」

「じゃそれで」


 かしこまりましたー、と店員は去っていった。すごい。流れるように注文した。


「君は間切くんに似ているな」

「そうですか?」

「あぁ。……当麻が痛みをこらえているのを心配そうに見るのとか」

 兄の前でもやったのか。そりゃ誰でも心配すると思う。さっきからずっと痛そうにしてるし。

「痛がってるのわかってるならやめない?」

「お前が余計なことを言わないのならば」

「凛太郎いじり楽しい」

「お前の足を粉砕する」

「本気でやりそう怖い!」


「仲良いですね」

 幼馴染とはこんなにも仲が良いものなのか。初等部からの付き合いの子はいっぱいいるけれど、それ以上は居ないから少し羨ましい。

「良いでしょ〜。私の自慢の幼馴染だよ〜」

 にへらと笑う相良先輩のその表情は初めて見た。なんかへにゃっとしてて可愛い。

 そんな相良先輩をむず痒そうに見ている時沢先輩を含め、二人を眺めていると3つのデザートが運ばれてきた。美味しそう。皿に乗っている、恐らくナイフとフォークで食べるんであろうそれをひとくちサイズにしていて口に入れる。とても美味しい。


「間切さん美味しい?」

「はい」

 とっても。今度また誰かと一緒に来よう。

「私の一口あげるからそれ一口頂戴?」

「どぞどぞ」

 ラズベリーも美味しそう。ありがたく貰おう。

「凛太郎もいるー?」

「…………いる」

「凛太郎甘党だもんねぇっっっぁ!」

 クレープを分けていたらまた相良先輩が撃沈していた。そうか。時沢先輩は甘党なのか。ふむ。



「……間切さん、アイスまでつけてくれなくても」

「美味しいですよ」

「ありがとう……」

 切り分けたクレープ(アイス付き)をあげたら時沢先輩は恥ずかしいのか俯いてしまった。まぁその顔で甘党だと意外性たっぷりだもんね。これがギャップというものか。



 その後は他愛もない話をして、解散になった。……私、なんで呼ばれたんだっけ。








「実際に会ってみてどうだった?」

「本当に感情がわかりやすいな」

「でしょ〜」

「あと予想より小さくて可愛い」

「え、本当に恋しちゃった?」

「何を言ってるんだお前は」

「そうかそうか〜。凛太郎もついにはつこいったぁ! なんで蹴ったのさ」

「恋じゃない」

「えぇ〜。そんなだから私とデキてるって噂が立つんだよ」

「おい待てどういうことだ」

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