43話
「間切! 秋田!」
「おわっ」
秋田くんと会話をしていたら赤坂が私の隣に座った。んん?
確か赤坂は女性恐怖症だったはず。この間女子を避けているのを見たし。なのになぜ私の隣に座る? そういやさっきも突進してきたな。
「花札やろう!」
「これはまた古風なものを……」
「俺やり方知らない」
「本当か!? なら教える!」
パアッと輝く笑顔を見せて言う赤坂は相変わらず私の隣に座ったままだ。え、もしかして女性恐怖症じゃなかった感じ? 私の気のせい? それならそれでいいんだけれども。何事もないのが一番だし。うん。しかし近い。ここまで近いとびっくりする。にしても本当に女性恐怖症ではないんだろうか。じゃああのとき後退ったのはどうしてだ。体調が悪かった? いやでもそれなら保健室にでもいけば……。
……自分で考えても堂々巡りだな。聞こう。
「赤坂くん」
「ん?」
花札の説明をしていた赤坂に声をかける。楽しそうに話していた彼は私の方に視線を向けた。近い。
「私、君は女性が苦手なのだと認識していたんだけれど」
秋田くんの顔に「今言う?」と書かれている。気になるもの。
赤坂はビクリと体を固くしていた。これは、あたりかな。女性恐怖症だったか。
「あーっと……なんで?」
「この間女生徒が近づいたときに少しだけ後ずさってたから、苦手なのかなと」
「まぁ、色々あって……ちょっとな」
困ったように赤坂が笑う。困らせてしまった。悪いことをしたな。すまない赤坂。
「そっか。……ところで女子が苦手なのに私にそんな近づいて平気なの?」
「えっ、だって間切は……」
赤坂の視線が私の頭からつま先までをなぞる。そして、一拍おいて。
「女子だ!!!」
この子は私の性別を男だと思っていたのだろうか。
驚いた様子の赤坂だが、私から離れようとはしない。おい、秋田くん。笑ってるの見えてるぞ。
「私、そんなに男っぽいかね」
「いや、間切は『性別:間切』だと思ってた」
もはや男ですらなかった。新たな性別が生み出されていた。
「何騒いでるの?」
「どうかしました?」
お茶とお茶菓子を用意していた辻村と木野村、山内くんが部屋に入ってくる。紅茶の良い匂い。
「間切が女子だった!」
「どう見ても女子ですね」
「間切さんは元から女子だよ」
「今も女子ですわね」
生まれてこの方ずっと女子です。
「いや、なんか間切の性別は間切って感じがしてて」
「なるほどね。少しわかる」
「確かにそんな感じしますわね」
「俺も少しわかる」
「わかります」
わかられてしまった。え、なに。私そんなに女子っぽくないの? もっと女子らしくすべき? 恋話とかすべき?
「もう間切の性別間切でよくないか?」
「勝手に私の性別を変えるんじゃない」
「ところでなんでそんな話になったんですの?」
「俺が女性恐怖症だって間切に気づかれてたんだよ」
赤坂が答えると辻村たちが驚いた顔でこちらを見た。
正直、私はゲームの知識があったからわかったのであって、それがなかったら気が付かなかったと思う。それくらい赤坂の反応は薄かった。
「確かに今、女子は苦手だけど木野村とか東雲先輩とか、辻村の姉さん方とか仲の良い人たちは平気なんだ」
「そうなんだ」
なる程。
「だから、これからもよろしくな、間切!」
改めて宜しくされてしまった。笑顔が眩しい。
花札と、最後の方はトランプで遊び、程よい時間で切り上げる。片付けを終えて身支度を整えていると赤坂が音もなく近づいてきた。音を立てろ。
「聞かないんだな?」
「何を?」
「女子が苦手になった理由とか」
あぁ、それか。
「君が聞いてほしいなら聞くけど」
私は一応知ってるしな。改めて聞くほどでもない。それに、あの様子からしてトラウマになっているんだろう。トラウマを想起させることをわざわざする趣味もない。
「今は思い出したくないなー」
「そっか。じゃあ聞かない」
「間切は良い奴だな!」
「…………そうでもないよ」
本当に良い奴なら君がそうなるのを何としてでも阻止しただろうし、自分の平穏のために君から逃げたりもしないだろう。私はそこまで良い人間ではない。
「……意外と居心地が良かった」
「新聞部も落ち着いてきたなら、これから度々呼ばれると思うよ。よかったね」
「嬉しいけど良くない!」
秋田くんの叫びが静かな帰り道に響いた。




