41話
下駄箱に果し状が入っていた。
その果し状に『放課後、離の前で』と書かれていたので素直に従い、今現在離の近くにいる。ぼっちで。まだ誰もいなかった。早すぎただろうか。
「間切先輩っ!」
「おー、山内くん」
待つこと十数分。果し状の差出人である山内くんがやってきた。走ってきたのか息切れしているし、頬も紅潮している。
「すみません……掃除が長引いて」
「そこまで待ってないからいいよ」
私より下の位置にある頭を撫でれば山内くんは可愛らしく笑った。可愛い。凄く可愛い。なんかこう、わちゃわちゃっとしたくなるね。弟と並んだら相当幸せな図になるんだろうな。
「今日はどうしたの?」
「先輩方から、間切先輩と会っても大丈夫だと聞いたので! 離にお菓子も用意してあるんですよ!」
その言い方だと今までは会っては駄目だと言われていたかのような……。
まぁいいや。後輩が可愛い。
山内くんに手を引かれるまま、離の方へと足をすすめる。もちろん、周りに誰もいないのを確認してだ。バレたら死ぬ。血祭りにあげられる。
離にたどり着いて、山内くんが扉に手をかけ、それを開く。
次の瞬間、私の耳に響いたのは滅多に聞くことのない破裂音だった。
「………………くらっかー?」
扉を開けた先にいたのはうちの学年の銀杏会メンバーだった。その手には音の原因であろうクラッカーが握られている。
「鳴らしてみたくて!」
「そこにクラッカーがあったので」
「面白そうだったからつい」
それぞれ赤坂、木野村、辻村の弁である。なる程。クラッカーを鳴らしてみたかったのか。それならもっと別の場所で鳴らしてくれ。驚いてしまった。というか山内くんが驚いて私の後ろに隠れてしまったではないか。可愛い。
「取り敢えずいらっしゃい、間切」
「どうぞどうぞ」
「お菓子あるよ」
久々に入る離に少し緊張しながらもお言葉に甘えることにした。辻村と山内くんに連れられて部屋に入る。
「……」
くまが、いた。
くまがソファで優雅に寛いでいる。
「あら、間切さん」
くまから発された声は聞きなれた東雲先輩のものだった。
「お邪魔します………………東雲先輩、えっと…………なぜきぐるみを?」
「最近寒くなってきましたので」
答えの内容に頭が追いつかない。寒くなってきたからといって何故きぐるみを着るんだ。
「これからの季節、どんどん着込んでいくでしょう?」
くまが喋る。なんという違和感。
「そう、ですね」
「しかしいくら着込んで手や足、胴体を温かくできても顔は中々温かくできないではないですか」
マスクとかしても寒いもんね。うん。わかる。
「そこで考えたのです」
「きぐるみなら顔も温かくできるのでは、と」
顔を温かくする代わりに色々なものを犠牲にしている気がするのは私だけだろうか。
「しかしこれは駄目ですね……」
もぞりとくまが動き、その可愛らしい手を頭部にかけた。
「温かいですけど、視界は悪いわ動きづらいわで、デメリットのほうが大きいわ」
カポッとくまの頭が外れて中からいつもの東雲先輩が出てきた。しかし体の部分はくまのままなので違和感はすごい。ところでこの人、もしくまのきぐるみのメリットがデメリットより大きかったらそれで登校するつもりだったんだろうか。
「では、少し着替えてきます」
「あ、はい」
くまの頭部を脇に抱えて東雲先輩は奥の部屋へと行ってしまった。というかいつの間にか辻村も山内くんも居なくなっている。どこに行ったんだろう。
「間切ー!」
「ぁぐっ」
キョロキョロとしていたら赤坂が突進してきた。私はそれに耐えられず床と仲良くする羽目になる。せめて一言言ってほしい。
「おわっ!? ごめん!」
「いや、いいけど……なんかテンション高いね」
「間切と久々に話せるからな!」
満面の笑みである。
「さいですか」
「やっぱりメールとは違うな! あ、はい、間切の分!」
渡されたのは1つのクラッカーだった。何故クラッカー。お土産だろうか。いや、そんなわけないな。
「なぜ」
「この後秋田も来るんだ!」
だから一緒に鳴らそうぜ、と。ふむ。
それは盛大に迎えてあげなければなるまい。




