31話
「すっぱぬかれた」
生徒会全員が集まった生徒会室で、件の新聞をペラペラと泳がせて相良先輩が言う。笑ってる。目は笑ってないけど口元だけ笑ってる。
「嘘八百。ありもしないこと書かれてますわね」
新聞にはなんか色々書かれていたんだと思う。正直興味がなかったのであまり見ていない。というか掲示板の前に人だかりができてて見れなかった。
「今回は私の方で訂正の記事を書かせますわ」
「それは助かる。今朝から周りが騒がしくて困ってるんだよね」
ただでさえ目立つのに更に目立って休めない、と言った相良先輩はまだ笑っていた。
「なぁ……生徒会長って離に行っちゃだめなのか?」
こっそりと、篠崎が声をかけてきた。そうか、篠崎は知らないか。
「明確なルールはないけど、暗黙のルールはある」
そう、明確に定められているわけではない。何となく周りがそうしているから。昔からそうだったから。入ってはいけない雰囲気があるから誰も入らない。ただそれだけ。
私が端的に言うと篠崎はふぅん、と言うだけだった。
「暗黙のルールが破られたから大騒ぎ?」
「だね」
「忘れ物届けただけなのにな」
「ねー」
二人でコソコソと話していると視界に影が落ちた。見上げると私達二人の後ろに相良先輩が苦笑を浮かべて立っていた。わぁ、髪の毛キラキラ。
「二人も気をつけるんだよ。生徒会は銀杏会の次に狙われやすいから」
「つまり今回は、新聞部にとってネタとなりやすい銀杏会のところにこれまたネタにしやすい会長が赴いたと」
「鴨が葱を背負ってダッシュで来た、みたいな感じですね」
とても美味しい場面だったと。しかも写真なら前後関係がわからない。その写真に見合った適当な文を付ければ良いと。
「私が鴨かな」
「ですね。それで、大丈夫なんですか?」
「ん? 何が?」
「ほら、こんなことになったんですから、こう……いじめ的な?」
銀杏会を神聖視する輩から攻撃されたりしないのだろうか、と疑問に思って口に出せば会長は私の頭を撫でながらふんわりと笑う。わぁ、イケメン。
「私の学年には銀杏会の人いないからね。それにちゃんと説明したから、同学年からは何もないよ」
「そうですか」
では他の学年からは? と気になったが聞かなかった。聞かない方が良い気がしたから。黙った私を見て相良先輩はふんわりと笑ってまた頭をなでた。中々気持ちいい。
「さて、仕事しますか」
「私と会長は話し合いに行ってきますわ」
「他の皆は間切くんの指示のもと動いてね。……あぁ、でも、周りが騒がしくて仕事にならないようだったら今日は帰っていいよ」
そう言って部屋を出ていった二人の姿を見送ったあと、それぞれ自分がやるべきことをこなすために行動し始める。私はまだ装飾を終えていないのでそれを。特に周りも騒がしくなく、問題もなかったので普通に仕事ができた。
「そういえば兄さんも少し前に書かれてたけど、あれはいいの?」
「まぁ大して支障ないし。暫くは泳がせておく」
「そっか」
何を泳がせているのかは聞かないでおこう。
夕飯の材料を買いながら、そう心に誓った。




