26話
「兄さん。あの新聞どういうこと?」
「やられた。まさか合成してくるとは」
放課後の生徒会室で聞けば兄はそう言う。やっぱり合成か。
「訂正しないの?」
「今は放置」
「大変じゃない?」
「それよりも学園祭準備がしたい」
「あっはい」
兄が言うなら。
「間切さん大丈夫だよ。しばらく放置するだけで、後で対処するから」
生徒会室、会長の椅子に座って書類を眺める相良先輩の顔は余裕そうである。まぁ上二人がそう言うなら放置でいいか。私の方に何か害があるわけでもないし。さて、私もやることやってさっさと帰ろ。……あ、そういえば。
「写真にいた女性は誰ですか?」
「ん? 戸柄智代梨。生徒会メンバーだよ」
「見たことないです」
中等部2年の先輩、東雲先輩、兄、相良先輩以外にもいたのか。見たことないけど。
「幽霊部員みたいなものだよ。いないものとして扱って構わない」
相良先輩がとても辛辣である。
「彼女はねー、中等部1年の時に間切くんに告白してるんだよ」
ニマニマと笑う相良先輩が教えてくれた情報は初耳だ。
「会長」
「それでねー、間切くんは断ったんだけど、彼女、愉快な思考回路しててね」
「会長」
「告白を断られたのは間切くんが照れていたからって解釈して、間切くんに付き纏ってたんだよ。少し前から落ち着いてきてたんだけどねぇ」
「なんで知ってるんですか会長」
「風の噂」
風の噂かぁ。
「一昨日かな? 中庭に呼び出されて、再度告白されたんだよね?」
「なんで知ってるんですか」
「断ったらこれだもんね。凄いや」
「なんで知ってるんですか」
「風の噂」
風の噂って凄いなぁ。
二人の会話を聞きながらそう思っているととあることに気がつく。兄が笑っていない。
「兄さんが猫かぶってない」
「ん? あぁ、この人に猫被ってたら仕事できないからな」
「なんで?」
「脱走するから」
「は?」
「気がついたら逃げてる。波留も気をつけるんだぞ。そろそろ忙しくなってくるから、脱走する回数が増える」
兄は真顔である。脱走するのこの人。
「少し休憩してるだけだよ」
「少し、ですか。……波留、最悪椅子に縛り付けていいぞ」
「後輩が容赦ない」
「縛り付けられたくなかったら仕事してください。ただでさえ人数少なくて大変なんだから」
「善処するね」
「波留、生徒会全員に縄常備させよう。もういっそガムテでもいい」
「兄さん落ち着いて。ガムテは痛い」
「服の上からなら問題ない」
「服脱いだら逃げられるよ」
「それは困る」
「後輩が手厳しい」
はははと笑う相良先輩は楽しそうだ。
私が知る限り、兄が猫を被らないのは身内と一宮さんだけだ。相当信用してるか、付き合いが長くないと素を見せない。そんな兄が素で接しているんだ。たぶん良い人なんだ。なんか妙にいろんな噂を知っていたり、脱走したりするらしいけど。
後日、至極真面目な顔をした兄から縄を渡された。




