いち 入学式1
私は生まれた時から前世の記憶を持っていた。
それはたぶんこの世界の記憶ではない。前世といっても別の世界での自分の記憶。似ているようで違う、世界。
そんな違いを刻むように私は幼いころの誕生日にカメラをねだり、そのカメラでこの世界の景色を写真に収め始めた。ちなみに今世の家は金持ちである。どんな事業かは詳しく知らないが、代々続く老舗だということはわかる。前世では後悔ばかりだったので今世は後悔のないよう、なんでも全力で取り組んだ。勉強だって幼いながらに頑張った。まさか幼児の手で文字を綺麗に書くことがあんなに難しいとは…。
前世では一人っ子だった私だが、今世では三つ上に兄が、一つ下に弟がいる。両親も仲が良く、家族仲は良好である。父親が娘である私に対してだいぶ過保護な気はするが許容範囲だ問題ない。私は幸せ者だ。
そして今、小学校へ入学した私は理解した。ここは、前世でやった乙女ゲームの中なのだと。
私こと間切波留は大きく聳え立つ学校の前で呆然と立ち尽くしていた。学校名は『私立 東雲学園』である。この名前、この校舎は前世でプレイしたゲームに出てきたものだ。
いやいや落ち着け私。ここがあの世界とは限らない。落ち着くんだ。そうだ、そんなわけないじゃないか。さぁ、クラスを見て、教室へ行こう。
「赤坂 夏樹」
絶望した。
赤坂夏樹は件の乙女ゲームに出てくる攻略キャラの一人だ。クラス表にその名があるということはここ件のゲームの中だとほぼ確定されるだろう。と、いうことはだ。
「辻村 雅直」
「木野村 夏鈴」
攻略キャラ2とライバルキャラのお嬢様の名前がある。
うわぁぁぁぁあああ!! もうやだ! 帰る!! 私のライフはもうゼロですぅぅぅ!! なんでだよ! せめて別の年代に生まれたかった!! これあれだよね!? 高校から入ってくる主人公が色々巻き起こすのに巻き込まれる係だよね!? いやだよ!? 私は平和に! 地味に生きていたい!
とりあえず心を落ち着かせるためにクラス表とその周りに群がる同級生たちを少し離れたところから写真に収めた。