三七話 ~レッツゴー、盗賊アジト~
森の最深部、よく見なければ分からないほどに精巧にカモフラージュされた入口の近くの草むらに俺達が隠れている
『――――?―――――――!』
『――ァ……』
そこには盗賊団らしき格好の奴が、一人の男性に何やら怒鳴りつけながら、暴行を加えている様子が見えた
「あれ?たしか男性は皆殺しに……って聞きましたけど……」
「……さぁな、方針でも変わったんじゃないか?使い潰して再起不能になったら楽しみながら殺すって感じになったのかもな」
クルスさんが俺の質問に予想で答えると、アンナさんがその答えに口を出す
「……えぇ、たしかに十分有り得るかもしれないわね。あの盗賊団の所業を聞く限りだと」
「だな、はぁ……想像するだけでも虫唾が走る。……楽しんでるかは定かじゃぁないが、それについては殆ど確定していいだろうな」
モースさんは、クルスさんの意見が確定であることを前提に話をする。……成程、これがパーティーの会話って奴か
「よし、簡単に段取りを決めておこう。……まずは俺が、先陣を切っていくが……異論はあるか?」
作戦の様なものをクルスさんが話し出す。……本当にパーティーらしいな。作戦についてだが――
「俺は特に何もないな」
「当然私もね」
「あ、はい。先陣はお願いします!」
俺を含めた三人全員、クルスさんの意見に異論はない。……少なくとも俺では先陣切るなんて出来ないしな
「任せておけ、じゃあ俺は行くぞ。タイミングはモースに任せる。……当然だが龍斗は二人の後ろにいるように」
「え、あ、はい」
何故か俺にだけ名指しで指示が来た。……言われなくても二人の後ろについて行くつもりだったんだが……なんでこんなに念押ししてくるんだろうか
「それと、言い忘れてたが盗賊を全滅させたら捕まってる人達の救出だ。これは言わなくても分かってるとは思うが一応伝えておく」
クルスさんはそう言うと、アンナさんとモースさんに何かを耳打ちして、一人でアジトへと向かっていった
そして、数分後
「……うっし!アジトに侵入だ。二人ともしっかり付いてこい!」
モースさんは、士気を向上させるために声を張り上げる
「は、はい!」
若干押され気味になりながらも、俺もモースさんに負けないように思いっきり声を張り上げた
「リュウト君、絶対に私達から離れちゃ駄目よ?」
アンナさんは、俺が単独行動をしないように釘を刺す
「それは当然です!」
自分の意思を伝えるために、アンナさんの目を見てはっきりと言うと、俺達三人はアジトに向かって一気に走り出した
「流石に数が多いか……!」
かっこつけて一人で突入するんじゃなかったな、これは
所詮はただの盗賊団……モンスターを倒してレベルを上げてる冒険者よりは弱いだろうと正直なめていた
けれど、流石にこれは予想出来るかよ……!
「なんで騎士がいるんだよ……!」
何故なら、この盗賊団には王都の元騎士がいたからだ。盗賊団にまで落ちるような奴だから他の騎士よりは弱いのは確実なのだが……
「ハッ!貴様に説明してやる義理はない、黙って俺様達に殺されておけばいいのだ!」
目の前の騎士モドキがそう言い終わると同時に、俺を囲んでいた盗賊団が一斉に攻撃を仕掛けてくる
「チッ…!」
だが、その場で回転斬りを行い、向かってくる盗賊を何とか切り落とした。一般人には見せられない状態になったがそんなことは気にしていられない
「クッソ!次から次へとキリがない!」
「当然だろう、この盗賊団は実力がある。ならば人が集うのは当然だ。……さて、貴様一人でどれぐらい保つかな?」
たしかにこのまま一人で戦っていれば流石に一時間も保たない
……だがそれがどうした。俺には仲間がいるんだ。今は一人で戦っていても、直ぐ二人が駆けつけてくれるさ。
「……一時間は保たせてやるよ。なんなら一時間でこの盗賊団を壊滅させてやろうか?」
「ほう、弱者程よく吠えるとは聞いたが、デカく出て来たな。……ま、そんなこと言ってられるのも今のうちだけだがな!」
目の前の騎士モドキは俺のことを心底見下しながら、次々と手下と思われる盗賊連中をけしかけてくる
(クッ…まずいな……このまま続けてたらいずれは……頼む、早く来てくれ!)
だから、今はとにかく自分の体力が尽きないことを祈りながら、次々と襲い掛かってくる盗賊達を切り伏せて皆の到着を待つ
それから数分後、背後から聞き慣れた声が聞こえてきた。……が、後ろを振り向く暇なんてない。そんなことをすれば直ぐさまデッドエンドだろう
「待たせて悪いな、って……おぉぅ、死体の量ヤッベェ……」
後ろからなんだか引き気味な声が聞こえてくる
「あぁ、正直ッ……!かっこつけてッ……!一人でこっちに来たことッ!……後悔してるさ!」
俺は敵を切り伏せながらそんなモースの言葉に適当に返答する。
「チッ……仲間がいたか。……だが二人増えたところでどうしようというのだ?」
堕騎士が余裕を崩さずにそんなことを言ってくる。……ってアレ?二人?
「なぁクルス。あいつ何者だ?盗賊にしてはやけにごつい装備してるような……」
「あ、あぁ……あいつは多分王都の元騎士だ。多分だが俺達全員で掛からないと勝つのはキツいな」
「元騎士!?……どうしてそんな奴がここにいるの!?」
俺がモースの質問に答えた瞬間にアンナが驚愕の声を上げる。……いや、それよりも
「は?貴様等が全員で掛かればこの俺様に勝てるとでも?」
目の前の元騎士は「お前等になぞ俺は倒せない」と、俺達のことを完全になめきっている。……だが関係ない、それより今重要なのは……
「……モース、アンナ。コイツはさっき二人増えたって言ったよな」
「え、えぇ……そうね」
「あぁ、言ったな」
……なんで二人とも気づいてないんだ。しっかりとアイツと離れないでくれって言ったのに
「……龍斗は何処に行ったんだ?」
「「――あ」」
二人はようやく気づいて焦りだした
……ヤバイ、完全にはぐれてしまった。
アンナさんに離れないようにって釘刺されたのに……なにやってんだ俺ええええええ!
敵地でなし崩しに単独になるって完全に死亡フラグじゃん!主人公なら敵に囲まれても余裕で生き残るけどさ!
主人公についていくモブだったらどうやっても死ぬやつだよ!……完全に俺のことじゃん!
いや、でも主人公についていく後輩キャラだったらワンチャン……ねぇよ、アニメじゃないんだから!
「……来るなよ、絶対に来るなよ。来るとしてもせめて一人で来てくれよ……」
あぁ本当にヤバイ、二人とはぐれる前はここまでビクビクしてなかったのにな……。一人になった瞬間にこれとか、俺って割と屑だなぁ
具体的には虎の威を借る狐みたいだ。今思えば、クルスさんは凄く強いって分かってたから安心してたんだなぁ
「……い」
アレ?なんか後ろから声が……ッ!
「チッ!避けやがったか」
「あ、危なッ……」
盗賊は間髪入れずに再び攻撃を仕掛けてくる。あぁ畜生!あんなフラグ立てたから見事にエンカウントしたじゃんか!
……でも良かったなぁ。だって相手は一人なんだし
「クソが!これも避けやがるか……よ!」
「そりゃ避けなきゃ死にますからね!」
取りあえず、目の前にある物を片付ける為に、俺はアイテムボックスから剣を取り出す
「死ぬのは……アンタだ……よ!っと」
「アグァ―――」
そして、相手が剣を上げた隙に横から切断した。……だが、これがいけなかった
「……あ、アレ……?なんか……急に…吐き気…が」
そう、斬り方が悪かったせいか、断面から中身が漏れ出てきたのだ。
「……あ、あ、あ…ウプ……アアアアアアアアア!」
俺は初めて『人』を殺した。
モンスターの時とは違って、罪悪感は全くない。
しかし、その時を優に超える視覚からのダメージが俺の精神を蝕んでいく。
俺の目の前に映っているのは、真っ二つになった『人間』の死骸。まだ死臭は感じないが。力が抜けて下半身の死体からは血だけではなく糞尿も漏れ出てきている
そこから漂ってくる臭気も嫌悪感を刺激する。今直ぐにここから逃げ出したい。だが体が動かない
……あぁ、調子にのってたなぁ。
俺はあくまでも『モンスター』を殺すことに慣れただけだったんだ。『生物』を殺すことに慣れたわけではなかったんだ
あぁ、最低に気持ち悪い。……生物を殺すことに慣れたと思い込んでた自分にも吐き気がする。
盗賊共を早くぶっ殺す?皆殺しにする?なめんなよ。お前は人を殺すということをしてないからそんなことが言えただけなんだよ
実際にやったら……こんなもんだ
「俺の……バカ…野郎」
俺は目の前の光景に耐えられず、敵地で意識を失ってしまった




