三一話 ~特訓開始~
異世界生活三日目、目覚めると俺は見知らぬ天井を見ていた。……あぁそういえば昨日からレニアと一緒に宿屋に泊まり始めたんだった
このままずっと横になっててもいいけど時間が無駄になるだけだし、取りあえずベッドから降り――ちょっと待て
なんでレニアが俺と同じベッドで寝てるんだ?
少なくとも俺が昨日眠気に負けた時にはもう片方のベッドに座ってたと思うんだが……
というか……寝相の悪さは昨日エクスから聞いてはいたが……予想以上だ、予想以上に寝相悪いよこの子
なんか寒いと思ったら布団は蹴り飛ばしてしてるし、エクスが言っていた通り腹は出してるし、少しだけ口も開いてるし、少しだけ涎も垂れてきてるし。
なんて言うか……全体的に女の子がしちゃいけない格好になってるぞ……。起こしてやった方がいいかな……
でも、昨日エクスがレニアはなかなか起きないって言ってたしなぁ……それに格好はだらしないが幸せそうに寝てるし……やっぱり起こさない方がいいか
……うん、布団かけた上でほっとくか。
一瞬だけ俺の煩悩が少しだけ服を捲り上げてやろうかという提案をしてきたがそんな物は当然却下だ。俺にはそんな根性ない上にやったら確実に気まずくなる。
もしくはみぞおちにクリティカルパンチがとんでくるだろうしやっぱり普通にベッドから出るのが一番だろう
……さてどうしよう、ベッドから出てもやることがないから何をすれば……あ、そうだ、少しでも筋力を上げる為に筋トレでもしておこう
俺のような非凡な奴が自信を持って強くなりたいのならやはり地道な努力が肝心だ。努力もせずに貰った力を何も考えずにただ振りかざしているだけじゃ胸を張って強くなったなんて言えないし
日本にいた時にはそういうことは出来なかったし、何か功績を成し遂げられなくてもせめてこっちでは胸を張って威張れるような生き方をしたいからな。
……よし決めた、筋トレするなら外でしてこよう。それなら走り込みも出来るから一石二鳥だし。
行く場所は……昨日薬草採取に行ったあの森にしようか。昨日はモンスターには出くわさなかったけど出て来ても弱いらしいしな
ついでに本当にモンスター殺しに慣れたのかの確認も出来るし、……昨日のアレは狂人スキルのせいだって分かったし多分大丈夫だと思うが……
確認は大事なことだと思う。今みたいに多分っていうのが一番危ないからな。まぁ出ないなら出ないで集中出来るし。出たとしても修助さんに聞いたとおりのレベルならダメージも受けないだろうし
……う~ん、でも一人でやるってのはちょっと寂しいなぁ……そうだ、修助さんを誘ってみようかな
丁度いい時間だし多分起きてるとは思うが……迷惑じゃないかなぁ……
……悩んでても仕方ないか、取りあえず誘ってみよう、断られたらその時はその時ってことで
俺は服を着替えてから部屋の扉の前へ進み、音を出さないようにゆっくりと部屋を出た
「クルスさ~ん、ちょっといいですか~」
ノックをしながら扉に向かって話掛ける、……さて部屋にいてくれればいいんだが
「……こんな朝っぱらから何の用件だ」
余計な心配だったらしい。……なんだか機嫌が悪いような……
「え、いや、その……ですね、今から筋トレをしに昨日薬草採取した場所に行こうと思ってるんですけど……よければ一緒に来てくれないかな…と」
「……つまりあれか、一人じゃ正直不安だから付き合ってくれ…と」
「いや、そのですね?嫌ならいいんですよ?これは俺のただの我儘ですし……」
流石に無理そうな気がするなぁ……朝早いから不機嫌っぽいし……
「……はぁ、しょうがねぇな、付き合ってやるよ、後輩が頑張るって言うなら先輩としては応援してやらなきゃな」
……どうやら余計な心配だったらしい。眠そうな目をしながらも修助さんは快く了承してくれた。
「あの……こんないきなりなのに嫌じゃないんですか?」
「いや別に、一応言っておくが余程のことじゃなければ頼られるってのは結構嬉しいもんだぞ?」
……やっぱりいい人だよなぁ、俺も大人になったらこの人みたいに器のデカい人間になりたいよなぁ
「……ホントにありがとうございます」
「気にすんな、俺だって最初は人に助けてもらってきたからな」
彼は少しだけ照れくさそうにそう言うと、自分の頬を叩き気合いを注入した
「それで?昨日行った森に行くんだったな、どうやって?」
「走れる時間を延ばす為にも全力で走ってスタミナを増やしながら行こうと思ってます」
「あぁそれで森の中を選択したのか。……確かに今のお前の体力だと格上のモンスターに出会ったら逃げてもスタミナがなくなった瞬間に直ぐ追いつかれて殺されるな」
……出来ればもう少しオブラートに包んで欲しかったなぁ。でも事実だろうから何も言えない
「……格上のモンスターから逃げ切るには最低でもどれだけ走れないといけないんですか?」
「そうだな、……少なくとも1分は息を切らさずに全力で走れるようになった方がいいぞ」
……結構キツいなぁ……でもこっちではスタミナが0になる度に1増えるんだから多分どうにかなるかな?
確か……昨日確認したときのスタミナは12だったから……後48回は限界まで走らないと駄目なのか……
「長いと思うかもしれないが安心しろ。しっかりとトレーニングすればこれぐらいの体力は自然に身につくからな」
「……そうですね、何なら一応敏捷スキルも持ってますし。……あ、すいません、外に出たらちょっとどれだけ走れるか計ってくれませんか?」
「おう、任せろ」
「ありがとうございます」
俺が今修助さんに計測を願ったのは敏捷スキルで抑えられるスタミナの減少を把握するためだ。冒険者をやっていて死にたくないなら自分の能力は正確に知っていないと駄目だろうしな
「気にすんな。……と、その前に……着替えてくるから待ってろ」
彼は一旦部屋の扉を閉め、約3分後に着替えを終えて扉を再び開けた
「待たせたな、早いところ下の受付で少し出かけてくるって報告しに行くか。……やる必要はないんだが一応な」
彼はそう言うと足早に階段に向かい歩き出し、俺はその後ろはとことことついて行った
「ありゃ?お二人ともおはようございます。随分とお早いお目覚めですね?」
俺達が階段を下ってから出迎えてくれたのはやはりアリスちゃんだった。
「……まぁね、それよりアリスちゃんもこんな早い時間からお手伝い?」
「ですね、これでも一応体力はある方だと自負していますので……あ、レニアちゃんはまだ寝てますね」
……断言してきた、聞くまでもなくレニアはまだ寝てるって断言してきた
「……うん、完全に寝てるね」
「……あぁやっぱりかー」
やれやれ……といった感じで彼女は溜息をつき、こちらを見てこう聞いてきた
「はぁ……まぁいいか、お二人はどちらかに行かれるのですか?」
「おう、ちょっと外に特訓をしにな!龍斗の奴が一緒に来てくれって言うから俺は付き添いだな」
修助さんが俺の代わりにそう答えた。……俺が答えなきゃいけなかった気がするんだけど
「へぇ~やっぱりレニアちゃんを守るためですか?」
「そ、それも半分ぐらいはあるかな」
残りの半分は勿論生きるためだ。……それにしても改めて言われて守るためって自分以外の口から言われたらちょっと照れるな……
「分かりました、レニアちゃんならどんな理由でも応援してくれると思います。なので私も応援します」
「そ、そっか、ありがとう」
何か応援してくれる理由が少し引っかかるけど……
「いえいえ、特訓ってどういうことをするつもりですか?」
「……筋トレとか走り込みとかかね……うん、それ以外はまだ決まってないな」
「そうですか。あ、お二人が帰ってくるまでにレニアちゃんが起きたら一応伝えておきますね。……多分起きないと思いますけど」
……マジか、普段どれだけ寝てるんだあの子。まぁ俺も日本にいた時は学校のない日限定だが10時前に起きるとかよくあったが
……ふと思ったんだがこの世界には学校とかあるのかな?……多分あるんだろうなぁ……主に魔法とかを教える金持ちや天才ばかりが集う学校が
「……お願いするよ。流石に心配かけるだろうし、……本人に聞きたいこともあるし俺が起こすから起こさないでくれると嬉しい」
「流石に起こしませんよ?仮にも今のレニアちゃんはお客さんですので。……それでその聞きたいこととは?」
……こういう話は結構食いついてくるよなこの子。
「……朝起きたら俺の寝てたベッドに侵入してたんだよ。……一応言っておくけど別にいかがわしいことなんてなかったよ?」
あれ?修助さんがこっちを見る目がなんか怖く……
『…………わー、凄く大胆なことしちゃってるー。意外に攻めるタイプだったのかー』
アリスちゃんは後ろに首を傾けてボソッと何かを呟いた。
(レニアちゃんが起きたら直ぐに何でそんなことしたのか聞いてみよっと)
俺には彼女が何を考えているかは分からない。分からないがなんとなく楽しそうにしてるのは分かる
「……アリスちゃん?俺達はもうそろそろ出るけど……」
「あ、はい、そうですね。いってらっしゃい」
「いってきます」
アリスちゃんに見送られつつ相変わらず目が怖い修助さんと一緒に俺は宿屋を出た
「龍斗、嬢ちゃんと一緒の布団に入ってたってどういうことだ」
……やっぱり聞かれるよなー。女の子と一緒のベッドに入ってたとか俺でも問い詰めるし
「……そのまんまの意味です。昨日眠ったときには確かに一人でベッドに倒れ込んでたんですよ。それが朝起きて気づくと同じベッドにいたんですよ!」
当然変なことは起きなかったです!と最後に付け足して少しは納得して貰った
「分かった分かった、もうお前ら付き合っちまえ。」
「だからそんな関係じゃないですから!まだ二日前に初めて会ったばかりの友達ですから!」
「何言ってやがる、恋愛に時間とか関係ないぞ?まぁ俺にはそんな機会は永遠に訪れないだろうがな!」
彼はそう言いながらハッハッハ!と自虐的な笑い声を上げた。
……ギルドで受付してたユーナさんに明らかに好意持たれてるだろうになんで本人は気づかないのか。これが分からん
女の子に好意を持たれるとか俺だったら直ぐに気づくってのに。……今直ぐにでも教えてあげたいが、こういうことに関しては本人自身で気づかないといけないだろうから口には出さないでおく
「そんなことないですって、生きていればいつかいい嫁さんは見つかると思いますよ?」
「……嫌味として受け取っておく。……さて、切り替えるぞ。お前の望み通り取りあえず計測してやるからしっかりと全力で走れよ?」
……なんで嫌味として受け取られたかは置いておくとして、どうやらようやく始められるらしい。付き合ってくれた修助さんに心で感謝しながら走ろう
「3、2、1、――ゴー!」
さぁ特訓開始だ!
遅くなった割に中途半端な所で終わってしまい申し訳ありません。残り数話でようやく少しだけ話が進みますので暫くお待ち下さい




