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第六十八話・発覚

 数分前、鳴峰組から出発した車の中で次のような会話があった。


「光助……今一度確認したいことがある」


 光助の父・九断は隣の座席に座っている息子に声をかけた。運転席との間には防音機能付きの仕切りがあり、風三親子はもう一台の車に乗っているため、この声は九断親子にしか聞こえない。


「お前、本当に組員になるのが嫌なのか」


「……嫌、ちゅうてん、無理やりさせっとやろう」


「無理やりさせられるとわかっているなら、なぜ反抗する。お前さえ望めば、明日にでも謹慎を解いて働かせてやるというのに。……当然、高校は中退になるがな」


 会話をしてはいるが、二人の視線は合っていない。光助は窓の外を、九断は前方を見ながらしゃべっている。


「わかっちょってん、気にくわん」


「何故お前がこんな状況にいるのか、それはわかっているんだろうな」


 タバコを取りだし火を付ける。ゆっくりと煙を吸いつつ、なおも九断は言う。


「元彦君が逃亡するのを協力したからだ。珍しくお前が捜索を手伝ってくれると思っていたが、まさか我々の目をごまかすためのカモフラージュだったとはな。大した度胸だが……当然、それは罪だ」


「……」


「お前にはこの世界で生きていくための掟を何度も教えたはずだ。規律を守り、一度背負った責任は最後まで貫き通せ、とな。その掟を守れないただのチンピラが多い今の世代にこそ、きちんと掟を守れる人材が必要だ。俺はお前をそうしたかった」


「勝手にな……」


 繁華街のネオンが、光助の顔をまだらに照らす。その表情には、図書館にいた頃の飄々とした軽さがなかった。


「もう一度だけ聞くぞ。お前、組で働くのが嫌か?」


 そう言って、初めて九断は息子の方を向いた。しかし、光助は外を見たまま答えた。


「鳴峰組が嫌いなわけやっちゃない。……アンタが嫌いやとよ」


 車が、ビルの前についた。



 ビルの一階では、すでに勝負が決まりかけていた。


 六回戦は、五回戦とほぼ同じ展開になった。しかし、字一が1と2の二枚を最後まで温存したため、最終的には142の損失に抑えることが出来た。これで直人の所持金は823万。


 さらにイカサマが見抜けぬまま、七回戦、八回戦が過ぎていった。全くなす術がない字一は焦りのためかミスを重ね、九回戦が終了した時点で1500万の負けになってしまった。


「あとニ回か三回で終わりですね」


 勝ち誇るような(少なくとも字一にはそう感じられる)口調で直人が言った。


「……バカな。次は、次こそは……!」


 そう言い続けて、負け続けている。もはや誰から見ても「詰み」の状態だ。勝負の熱気だけが精神を支配し、冷静にものを考えられなくなっている。


「それじゃあ十回戦を始めます。ですが、念のためにもう一度確認です」


 直人は容赦しない。絶対に負けられない状況にあるのは直人達も同じである。


「僕があと500万稼いだら、二人を解放してくれるんですね?」


「うるさい! 早く次のカードを……」


「当然だ。我々の存在は礼儀の上に成り立っている」


 低い声が字一の言葉を遮った。声のした方向を見ると、ギャラリーを押しのけて二人に近付いてくる四人の男たちがいた。いずれも見覚えのある顔だ。


「か、風三さんに九断さん! なぜここへ……!?」


 字一の悲鳴に近い声で、直人と丈二も気付いた。鳴峰の二大幹部と、その息子達。


「光助さん!」


「坊主……」


 しかし、それ以上言葉を交わす前に、風三が場を仕切り始めた。


「明石字一君。どうやら君は、しくじったようだな。その汗まみれの顔を見ればわかる」


「し、しかし、まだ完全に敗北したわけではありません! まだ500万残っています!」


「ほう。では、君はこの状況から逆転出来るのか? 確実に勝つ手段があるというのか?」


「それはッ……!」


 言葉に詰まる。結局、字一はイカサマを見抜けなかったのだ。が、風三は瞬時にそれを見抜いていた。


「わからないのか? この程度の安いトリックが」


「え?」


 風三だけでない。九断も、あとの二人も気付いていた。混乱した字一だけが気付いていなかったのだ。


「君は確か……名はなんと言ったかな」


 風三が声をかけたのは、直人の隣に座っているサングラスの少年だった。


「誰って、そいつは立国……」


 そう言いかけて、ようやく字一は気付いた。


「! 貴様! 丈二じゃないな!?」


 奇異な格好に騙された。よく見ると、顔の輪郭がわずかに違う。


「……」


 観念したように、少年がサングラスを取る。紛れもなく、それは直人の親友――栄和仁だった。


「丈二は! 丈二はどこに……」


 探すまでもなくすぐに見つけられた。三回戦の前からトランプのシャッフルを担当していた若いスーツの男。それが、度の入っていない伊達メガネとつけひげで変装していた、丈二だった。


「お前が……そこでシャッフルを……」


 丈二の強運なら、自分の思った順番になるようにカードをシャッフルできる(さすがに52枚全ては不可能だが、13枚程度なら不可能ではない)。ディーラーの配り方も考慮してカードを並べ、狙った場所へ特定のカードを配置。直人は、ただ打ち合わせ通りにカードをめくっていただけ、だったのだ。


「俺が……俺が勝負をしていたのはお前だったのか、立国丈二……」


 イカサマではない。純粋な偏才同士の闘いだった。

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