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第六十話・その正体

「ジョーが? ……うん。わかった」


 直人からの電話を切り、結子は自分の動悸が早まっていることに気付いた。


(ジョーがトランプで負けた……。まさか、それほどの相手だったの? 明石字一……)


 電話を受けても、結子はすぐにはその場を動かなかった。


(みどり……)


 室内からは相変わらず物音が響いてくる。みどりはまだ部屋の中にいるようだ。


「……聞いて。みどり。あなたのお兄さんが、うちのメンバーを退けたわ」


 中からの反応はない。しかし、一瞬物音がやんだことから察すると、一応聞いてはいるようだ。あくまでも結子の解釈だが。


「私は、今からメンバーのところに戻らなきゃいけない。だから……今日は、これで帰るわ」


 鍵のしまった扉に向かい、のどの奥から搾りあげるような声を発する。


「でも、明日も来るから! その次の日も、その次も……! ちゃんと、みどりが私の方を向いてくれるまで、何度でも来るからね……!」


「……」


「それじゃ……帰るね」


 部屋の中ではみどりが黙って座り込んでいた。結子の言葉を聞き、やがて足音が遠ざかって行くのも聞いた。完全に足音が聞こえなくなって、ようやく立ち上がり、部屋を出て行く。


「結子」


 さっきまで結子が立っていた場所に向かい、そっと話しかける。


「……結子」


 それ以上、言葉は出せなかった。のどに言葉が張り付き、口から出ることはなかった。




「もう大丈夫? 丈二君」


「あ、ああ。もう吐き気はない」


 カジノから敗走した二人は、そのまま図書館へと来ていた。少しでも記憶が鮮明なうちに字一の偏才を見破るためだ。


「吐くもん吐いて楽になったら、色々と思いだしたことがある」


 テーブルの上に13枚のカードを並べ、ゲームの再現をする。


「まず、最初に先攻と後攻を決めるときだ。アイツはわざと俺に選択権を譲った」


「それで丈二君は先攻を選んだ」


「俺の性格なら先攻を選ぶってわかってやがったんだ。自分から後攻になるって言いだしたんじゃあ怪しまれるからな」


「じゃあ、字一さんは最初から後攻になりたかったってコト?」


 直人も一度「先攻と後攻を入れ替えてくれ」と字一に頼んだが、そこまでは考えていなかった。ただ単に少しでも変化をつけたかっただけだったのだ。


「あのゲームは、先攻が強いカードを取ったからといって必ずしも大敗するわけじゃあない。わざと弱いカードを引いて合計値を少なくすればば被害を最小に抑えられる」


「でも、そんなに都合よく弱いカードを引ける?」


「それが、アイツの偏才に関わってるんだと思う。とにかく守りに徹していれば、時間が経つと同時に俺の強運は削がれていく」


 悔しげに机を叩き、歯をきしませる。その様子は、考えなしに飛び込んだ自分を呪っているようにも見える。


「相手は俺の家まで知ってた。カジノでの様子から、俺の偏才の正体もバレていた。もっと警戒するべきだったのに……ちくしょう」


「どっちみちあの状況じゃ逃げられなかったよ。……あっそういえば」


「どうした、直人」


「字一さんは何で丈二君の家族の写真を持っていたんだろう」


「そりゃ……組の人間に調べさせたんだろ。俺にプレッシャーかけるためによ」


 忌々しく応える。が、直人は冷静だ。


「前にさ、光助さんが言ってなかったっけ。確か……僕の携帯が奪われた時に。相手は僕たちのことをある程度知っているって。あの時点では字一さんたちは鳴峰組と接触してないよ」


「そういやぁ、確かにな……」


「僕の携帯からボスさんの居場所を調べたことを考えても、字一さんは情報収集に関する偏才だと思ってたんだ」


「情報収集ねぇ……犬野朗にはムリだろうし、みどりちゃんも違うみてぇだしな。けど、それじゃあサーティーンでの勝ち方が説明できねぇぜ」


 情報収集とギャンブル。材料はこれだけだ。


「何だろうな。カードになにか情報があるってか? いや、ガンはなかったしな……。はぁ、俺がもっと用心してりゃあ、こんなことにならなかったのになぁ……」


 丈二はまたも落ち込みだしている。


「それを言ったら、ボスさんの居場所がバレたのは僕の携帯のせいだし」


「携帯か……。あれ一つで多くの情報が入ってるって光助が言ってたな」


「多くの情報がなんだって?」


 直人の言葉ではない。やや沈みがちながらも、伸びのある声だ。


「平崎さん!」


「結子。……どうだった?」


「ん」


 結子は首を横に振る。が、その目には消沈していない。


「何の話してたの?」


「字一さんの偏才について、ちょっと……」


 直人が手短に説明すると、結子もまた腕を組んで考えだした。


「う〜ん、確かに短期間であれだけの情報を集めるってのも何かしらの才能が必要っぽいしねぇ……。でも、具体的に情報収集の才能ってどんなんだろ?」


「あ?」


「パソコンのハッキングが上手いとか? でも今の情報化社会じゃあ、特別珍しいってわけでもなさそうねぇ。ただ闇雲に情報を集めるだけなら誰でも……」


「闇雲に集める……」


 そして、的確に目的のカードを見抜く才能。直人の中で何かがつながった。


「情報の中から……見つける。見つけ出す才能、だとしたら」


「見つけ出す?」


「多くの物や情報の中から、自分に有益なものだけを選んで取れる。そう言った『選択』の偏才」


 時計が、十時を回った。

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