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第四十七話・執行される復讐

 一日中制服姿のまま街で遊んでいた俊は、夕方になってようやく家へと足を向けた。


「結局、今日も学校サボっちまったな。ま、俺にはもう学校なんて必要ないけど」


 そう言いながら空き地に通りかかる。それを待っていたかのように犬達が土管の中から顔を出した。


「お、お前たちも帰ってきてたのか。楽しかったか〜? 今日一日」


「ワン!」


「そーか、そりゃよかった」


 俊の扱っている犬達は、夕方から朝にかけて空き地で寝泊まりし、昼間は野良犬として自由に街中を徘徊するようにしていた。


「あざー先輩の復讐もほぼ完成したし、毎日が楽しくってしょうがねぇよな」


「ワウ……?」


 ハツが妙な鳴き声をあげ、鼻先を少し持ち上げてあたりの臭いをかぎ始めた。


「どうした? ハツ」


「ワン!」


 一声吠えると同時に、俊は悟った。素早く合図を送り、犬達を急いで土管の中に隠れさせる。


「この辺、だったよな」


「たぶん。前に会った時も確かこの近く……」


 会話しながら空き地へ近付いてくる。三つの人影。その一つが、俊の存在に気付いて声をあげた。


「いたよ!」


「あっ!」


 紛れもない。結子、直人、丈二だ。


「おいおいおいおい。お前ら、なんの用だ? 今更よォ」


 土管の方に後ずさりしながら、俊は三人を睨みつける。


「みどり達の居場所、知ってるでしょ?」


 結子がボールを持ったまま先頭に立ち、空き地へ踏み入る。


「教えて。あの兄妹がどこに住んでいるのか。あるいは、いつもどこにいるのか」


「はぁ? 何で俺がそんなこと教えなきゃなんねぇんだ?」


 俊や明石兄妹にとって、目の前の三人はすでに「用済み」であった。風三元彦の居場所を突き止めるきっかけにはなってくれたが、これ以上は何の関心もない。俊にとっても、すでに結子に対する執念は薄れていた。


「断るに決まってんだろーが」


「教えなさい!」


 結子が声を強くした。結子は二度、直人に至っては三度も俊の操る犬によって苦しめられたのだ。相手の軽い態度が気にくわない。


「お? じゃあなに? 力ずくで……てコト?」


 俊はパチッと指をならし、ハツを呼んだ。


「なぁんかさぁ……。こんな状況になっちまうと、また復讐心が湧きあがっちゃうよなぁ〜。あざー先輩の作戦が上手くいった喜びで忘れかけてたのによぉ」


「……私たちも、ここで余計な争いはしたくない。でも、どうしてもアンタが断るっていうんなら別よ」


「そうだ! さっさと教えやがれ!」


 丈二が進み出る。先手必勝だと言わんばかりの闘気を発しながら。


(ふ〜ん……)


 俊はしばらくの間、結子たちを無視して考え込んだ。この状況と、再び燃え上がってきた復讐心を照らし合わせて、どう行動するのが最も効率がいいのか、真剣に考えていた。


「なぁ。それじゃあこんなのはどうだ? アンタ……」


 と、結子を指さす。


「アンタ一人だけになら、教えてやってもいい。俺も三対ニで闘うなんて面倒だし、住所を教えたところですぐにお前らのボスが助かるわけでもねぇしな」


「私、一人?」


「そう。そっちの男二人はここで俺のハツを見張って、別の場所で俺とアンタの二人だけで会話する。そうしたら教えてやるよ」


(……どういうつもり?)


 俊の狙いがわからず、結子は戸惑う。犬がいないのなら自分一人でも対抗できる。自分達にとっては決して悪い条件ではない。


(でも、それが逆に怪しい。コイツが、何も考えずにこっちを有利にしてくれるっていうの? 何か他の目的があるんじゃ……)


 しかし、いくら考えてもその目的がわからない。残した犬に丈二たちを襲わせるつもりなのだろうか? その可能性は低い。俊は丈二がトランプを武器に出来ることを知っているのだ。


「なぁ、どうするんだ」


「平崎さん……」


 そして結子は決断した。




「ここなら、誰にも邪魔されないだろ」


 俊が結子を連れて来たのは、あの図書館の秘密部屋だった。


「まさか、ここまで突き止められてたなんて……」


「あざー先輩は情報収集が得意だからな。お前らのアジトを突き止めるぐらい余裕だぜ」


 結子は、いつも自分たちがたむろしている部屋が異質なものに感じられた。


「それじゃあ、早く教えなさいよ」


 丈二と直人は先ほどの空き地で待機している。ハツを見張るためだ。


「その前に、ちょいと蒸し暑いから窓開けるぞ」


 俊は窓のカーテンを開け放し、鍵を外す。そして、窓を勢いよく開いて叫んだ。


「来いッ! ナカ!」


「えっ!?」


 窓から飛び込んできたのは、体が小さく赤毛の犬だった。可愛らしい外見とは裏腹に、その顔つきはハクやハツと同じく凶暴である。


「犬は連れてこないって……」


「ハツを連れてこないって言ったんだ!」


「ガアゥ!」


「アツッ……!」


 ナカは、突然の展開に反応が遅れた結子を襲う。右手が振り上げられるよりも一瞬早く飛びかかり、その手からボールを弾き飛ばした。


(しまった!)


「よ〜しよし。上出来だぞナカ」


 俊の視線が、結子の脚や胸元に向けられる。


「ちゃんと住所は教えてやるから安心しな。たっぷり楽しんだ後に、だけどな」


 結子が俊の狙いを理解した時、全ては手遅れだった。

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