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第四十五話・過去を向く者、未来を向く者

 鳴峰組本部の一室にて、幹部二人と字一が会話をしている。その隣の部屋では光助と元彦が待機させられており、人払いをしているため他の組員達はいない。


「御苦労だったな、字一君。君の希望通り、最初に元彦と話をする権利は君に譲ろう」


「ありがとうございます」


 字一は無表情で頭を下げる。


「しかし、君も思い切ったことをしたものだな」


「……」


「君の父を処分したのは我々だ。君は、我々を憎んではいないのか?」


「父のやったことは……父に責任がありますので」


 庭に面した障子を開け放した室内に、静かな風が流れ込んでいく。初夏にふさわしい、爽やかな風だった。


「父のやったことを考えれば、あのような処分も仕方ないと思います。ですが……元彦の態度が気に入りません」


「ほう」


「間接的とはいえ人の生涯を破壊したにも関わらず、あの者は勝手に世間を捨てました。人の人生を狂わせたからには、その責任を背負って生きるべきです。それを放棄して逃げたという行為は、許容できません」


「うむ。その点は我々と同じ意見だ」


 元彦の父は大きく頷いた。元彦達の行動に最も怒りを覚えているのは、間違いなくこの父親二人である。


「それにしても、だ。この組に頼ることに抵抗はなかったのか? 事件の発端はここにあるのだぞ?」


「……正直、最初は組に頼るつもりはありませんでした」


 字一の表情が少しだけ曇る。


「私達の手で、元彦に復讐をしようと考えていました。しかし、みどり……妹の提案で、ここへ連絡をさせていただきました」


「みどり? あの少女が提案したのか」


「ええ。鳴峰組、特にあなた方に所在が知られてしまう、ということが奴に最も大きなダメージになる、というのが妹の考えでした」


「それは、おそらく正解だろうな。元彦の様子からすると」


 少しの間をおいて、字一は打ち明けた。


「妹にはそう言った偏才があります。あいつは……子どもの頃から、相手の弱点を見抜くことに長けていました」


「ほう。それは興味深いな」


「偏才……か。光助もそんなことを言っていたな」


 そう言う男の口元に、苦い笑みが浮かんでいる。


「まったく、妙な遊びを思いついたものだな」


「遊びではありません。少なくとも、社会的な能力の低い我々学生が元彦を探すためには、こういった才能を持つ者の集団が必要かと。……逆に元彦達は、このような事態に対処するために仲間を集めていたのだと思います」


「……ふっ。そういうことか」


 小さな笑い声だけを残し、幹部二人は部屋を出て行った。そしてようやく、元彦の待ちわびた「面会」の時間が訪れたのだった。


「入るぞ。風三元彦」


 座敷の奥に声をかけ、字一はふすまを開いた。




「本当にいいの? 私のわがままを聞いてもらって」


「わがままも何も、俺たちには他に出来ることがねぇしな」


 図書館の秘密部屋。結子と丈二、直人の三人が今後の計画を話し合っている。鳴峰組の登場によって、「これ以上巻き込まれるとマズい」と判断した和仁は手を引いたようだ。


「まず、明石さんと話をつけるんだよね」


「うん。一度、みどりと話し合いたい。少なくとも今のままで済ませたくないの」


 結子は完全に覚悟を決めていた。


「あの女の子が、連中と渡り合う唯一のカードだしな」


「でも、明石さんの住所、わかるの?」


 それが問題だった。


「汐春高校だとは言ってたけどな」


「それも本当だとは限らないでしょう? あの時だけ違う高校の制服を着てたのかも」


「何のために?」


「今まさに、私たちに住所がバレて邪魔されないために」


「あ、そうか」


 どことなく、丈二は落ち着きすぎているように見える。光助がいないためか、その代理を務めようとしているのかもしれない。


「それじゃあ結局、ヒントはねぇのかよ」


「そうね……」


「あるよ」


 最初に閃いたのは直人だった。


「あの……刻同俊って人。あの人はウチの学校の人なはず」


「犬野朗が? 本当かよ」


「そういえば、アイツと最初に会った時はウチの制服着てたわね。アイツ、あの時点ではまだ私たちやボスのことを知らなかったから、変装じゃないと思う」


 記憶の中から、その時の様子を引き出す。ほんの数週間前の出来事なのに、もう何か月も前のように感じられた。


「でも、あんな奴今まで学校で見たことねぇぞ? 上級生のクラスにはあんまし行かねぇけど、あれだけ目立つ金髪がいたらすぐわかると思うけどな」


「あんな奴が真面目に学校行ってると思う?」


「それもそうだな」


 しかし、他に方法はない。ともかく学校の二年生や教師に尋ねるしかない、ということになってその日は解散とした。


「あの犬野朗をとっちめるのは俺に任せてくれ」


 そう言う丈二の目に強い光が灯っていたのを、直人は確かに見た。

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