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第四十四話・強制連行

「どうぞ、こちらです」


 字一はそう言い、後ろに控えていた男たちを室内へ招いた。その男たちは、直人も一度会ったことのある人物だった。


「親父!」


「光助。お前……」


 光助の父親だ。それだけでない。元彦の父も含めた鳴峰組の組員達、合計十名ほどが字一と共に室内へ踏み入ってきたのだ。


「元彦。こんな所にいたのか」


「父、さん?」


 元彦にとっても予想外だった。まさか、字一が鳴峰組を引っ張ってくるとは想像していなかったのだ。


「組の人間に居場所がバレる。お前の一番嫌なことだろう?」


 勝ち誇ったような笑みを浮かべ、字一は元彦を指さす。


「俺は、俺たち兄妹はお前の嫌がることなら何でもしてやる。危険を承知で組に連絡することもな。そして、俺はこの功績を認められて正式にここの組員になったよ」


「くっ……」


「この状況では、お前はもう逃げられない。いや、お前に関わった人間すべてだ」


 いかにも屈強そうな組員達が、元彦を取り囲もうと進み出てくる。


「まっ、待っちくりや!」


「光助!?」


 素早く、光助が組員達の前に立ちふさがった。


「もう少し、待っちくり。今かい、そいつらと話ばつけっかい、せめてそれが終わるまでは……」


「光助」


 光助の父が、威圧感のある声をあげる。


「お前、元彦君の居場所を知っていて、それを隠していたな?」


「ぐっ……そ、そりゃあ」


「隠していたんだな?」


 口調が強くなった。おそらく、サングラスの奥の瞳は怒りに燃えているだろう。


「元彦。二年前、お前のやったことが正か非か、問題はそれだけではないのだ」


 元彦の父もまた同様だった。


「己の葛藤を解決することだけでなく、組員としての役割までも放棄してこんな所に逃げ込んでいたという事実。この方がよほど問題だ」


「……」


「すぐに本部へ連れて行く。当然、二人ともそれ相応の罰を受けることになる」


「待てよ!」


 言葉を遮ったのは、丈二だった。


「君は……光助の友達か。だが所詮は一般人。黙っていれば君たちは解放してやる」


「そうはいかない。俺たちの知らないところで勝手に話がまとまるなんて、納得できない」


「ジョー!」


 結子の止める声も聞かず、丈二はキッパリと言いきった。


「連れて行かないでくれ……ください。そんな、罰だなんて……」


 あまりに無謀な要求だった。しかし、このままでは鳴峰組は二人にどのような「処分」を下すかわからない。身内と言えど、礼儀と戒律の前では加減がない。


「無理だな。一般人は何も口出しをするな。これは我々の組織の問題だ」


 組員の一人がそう言った時、丈二に加勢が現れた。


「あなた達だけの問題じゃありません」


 結子だった。その視線は、真っすぐにみどりへ向けられている。


「私だって、この事件には無関係じゃないんです!」


「うるさいぞ!」


 その怒号と同時に、鉄の塊が結子に突きつけられた。引き金を引けば、アッサリと命を奪うことのできる道具――拳銃だった。


 ガチャッという音が幾重にも重なって室内に響く。男たちが一斉に銃を抜いて構えたのだ。中にはドスと呼ばれる短い刀を持った者もいる。


「悪いが、こういう時に実力行使ができなきゃ筋モンと言えないんでな」


 この建物の周辺は人通りが少ない。鉄の扉も相まって、銃声が人の耳に届くことはないだろう。


「連れて行け」


「はっ!」


 光助と元彦が男たちに囲まれる。


「光助!」


「やめぃ、ジョー。こんげなったら、逆らわん方がええ」


「でも、このままじゃお前……」


「構うな。抗えば抗うだけ、状況は不利んなる」


 珍しく光助の額に汗が浮いている。いつもの飄々とした雰囲気は感じられない。


「光助さん……」


「坊主」


 光助が部屋を出て行く直前、直人と視線がぶつかった。


「坊主。結子んこつ、頼んだぞ」


「えっ……」


 一方、元彦も連れて行かれる際に、結子へ言葉を送っていた。


「君の問題は、君の手で解決してほしい。我々の方も出来るだけ努力はするが……」


「……ええ。みどりと、話をつけてみます」


 そのみどりは、すでに字一と共に部屋を出て行っている。その代り、ドアの前に俊が残って立っていた。


「よぉ、トランプ少年」


「なんスか? 犬コロ先輩」


「何ウジウジ悲しんじゃってんの? お前らは解放されてんだからよ、今連れて行かれた奴らのことなんか忘れて、ごく普通の学校生活送ってりゃいいだけじゃん?」


 丈二は精一杯に言い返すが、俊は優越感にあふれた笑顔で応えた。


「アイツらだって別に殺されるわけじゃあねぇしよぉ。……あ、もしかしたらそれもアリ、かもな」


「黙れ」


 直人は一瞬耳を疑った。丈二の口から、冷徹な声が飛びだしたのだ。


「二度とそんな口をきいてみろ。この間程度のキズじゃ済ませねぇぞ」


「ッ……」


 俊も圧倒され、思わず後ずさりする。そして、逃げるように背を向けた。


「へっ、今は犬を連れて来てねぇからな。無駄なケンカはやめとくぜ」


 これらの出来事が、わずか十分の間に行われていた。

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