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第四十二話・迫る再会の時

「相当のさん仕事やったっちゃけんな。そんげして、今ん組織の前身が出来たっつよ」


 語り終えて、光助はフーッと長く息をついた。


「ボス……さんって、鳴峰組の人だったんですか」


「おう。組の人間が総出で探しよるけん、おりゃが協力して何とか隠しおおせちょる」


「それじゃあ、光助はボスの居場所を知っているんだな?」


 丈二が真面目な顔つきで問う。丈二と結子は、今まで自分たちに仕事を廻していた人物の詳細を何も聞かされていないのだ。光助が「ボス」と関わっているということさえ、今初めて知った。


「今んところ、あの場所を知っちょっとはおりゃとケリーとボス。それに、何の事情も知らない食料の運送係ぐらいやな」


「……そこに、連れて行け」


 そう言ったのは和仁だ。


「ようするに、俺はそいつのもめ事に巻き込まれたんだろ? これ以上とばっちりを受けてたまるか。本人と話をつけてやる」


「別に、お前自身は被害を受けてねぇだろうか」


「二度と巻き込まれねぇって保障がどこにある! 俺はちゃんと納得して安心したいんだよ!」


「どっちみち、そんつもりや」


 光助は和仁の意見を受け入れた。


「遅かれ早かれ、敵……明石兄妹と犬野朗は、いずれボスん居場所を突き止めるやろ。坊主ん携帯から番号を掴み、そっから電話会社のデータを利用すりゃいいっちゃかいな。少なくとも、連中がボスのところに行く前に、おりゃらがボスに会っとくんは悪くない」


 しかし、外はもうかなり暗くなってきている。一人暮らしの直人はともかく、結子たちはあまり遅くなると家族から何か言われるかもしれない、ということで「ボス」のもとへ向かうのは明日となった。


「みどりの親が……鳴峰組……?」


 ポツリと結子がつぶやいた。今の話によると、明石家の父親が処分されたのは、みどりはまだソフト部のキャッチャーとして活躍していた時だ。中学時代のみどりは、結子に対してそんな素振りを少しも見せなかった。


「みどり……」


 光助達が帰り支度を済ませ、部屋を出て行こうとしても、結子はイスに座ったまま動かなかった。


「平崎さん?」


 直人がそれに気付き、再び部屋の中に戻ってくる。気を利かした光助と丈二が和仁を無理やり引っ張って外へ連れ出したため、部屋の中には結子と直人の二人きりになった。


「平崎さん、大丈夫?」


「うん……」


 そう返事はするものの、結子の目には光がない。


「あたし、なんで気付かなかったんだろ……。みどりが、本当はスゴく無理してたってことに……」


「えっ」


「お父さんがいなくなって、本当はスゴくつらいのに、学校や部活ではいつも明るく振舞って、あたしのこと励ましてくれて、いつも、頼りにできて……」


 みどりとの最後の試合。一度の敗北が全てを終わらせた瞬間を、結子は思い出していた。


「きっと、みどりはソフトだけが希望だったんだと思う。ソフトの試合で勝つことだけが、心の支えになっていたはずなのに……。あたしが、あたしが打たれたから、それで」


 しゃべっている間に、結子の目がしらに熱いものが溜まって行く。全身の震えを止めるようにスカートの端を強く握り、歯を食いしばる。


「あたしが打たれて負けたから、みどりはストレスが爆発して、あんなこと言っちゃったんだ。それなのにあたしはちゃんと謝りきれなくて、そのままにしちゃった……」


「平崎さん」


 直人は、結子とみどりの間の出来事を詳しくは知らない。しかし、一言だけ、一言だけ結子に言いたいことがあった。


「平崎さん。その……」


「何?」


「み……明石さんは、きっと、試合に勝つことじゃなくて、平崎さんと一緒にソフトが出来ることが、支えになっていたんだと思う」


「……」


 何の根拠もない、ただの気休めであることは明らかだ。しかし、それが直人に出来る精一杯だった。


(私と、一緒に……)


 その気持ちが、嬉しかった。


「そう、だったらいいね」


 結子の目に溜まった熱は流れず、震えも止まっていた。


「うん。ありがとう、積里君」


 勢いよく立ちあがってカバンを掴み、直人に笑顔を向ける。


「さ、行こうよ。早く出ないと光助達に色々言われちゃう」


「あ、うん!」


 色々言われてもいいな、と直人は密かに思いながら部屋を出て行った。





「お兄ちゃん、ちょっといい?」


「何だ。みどり」


 みどりがドアを開けると、字一は相変わらず、闇の中でパソコンに向き合っていた。パソコンに電気を使う分、他の電力を節約しているのだ。


「見つけた? 風三元彦の居場所」


「いや……もう少しだ。だが、もう数日も必要としないだろう。電話会社へのハッキングは何度もやっているからな」


「そう。よかった」


「だがみどり。お前や俊は連れて行かない。お前達は学校にちゃんと行くんだ」


 字一は冷たい声でハッキリと言い張った。


「俺と違って、お前はまだまだチャンスがあるんだ。これ以上は関わるな」


「でも……」


 みどりはそれ以上の言葉を発さず、ただじっと兄の目を見続けていた。そして、数分の後にとうとう字一が折れた。


「わかった。ただし、学校には行けよ。奴のところに向かうのは放課後になってからだ」


 それを聞いて、みどりは部屋を出て行った。

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