第三十八話・暴かれる過去
「ほう、そげなこつがねぇ」
図書館の秘密部屋。結子たちから報告を受けた光助はそう言って考え込んだ。その膝の上ではケリーがうたたねをしている。
「ちぃっと整理してみっかね。その俊とかいう男ん目的は結子へん報復。それとは別に『あざー先輩』なる人物から命令されていたことが、坊主ん携帯を奪うこつ、け」
「その後半の方がわからないのよね。積里君って、みどりと知り合いだった?」
「ううん。特には……」
結子の方しか見ていなかったから、とは言えない直人であった。
「それでも同じ中学だったんだろ?」
丈二が口を挟んでくる。
「もしかしてさ、そのみどりって子が直人に興味あるとか、かもな」
「えぇっ!?」
「先輩からの命令っつってただろうが。物忘れの激しい奴だな」
和仁も余計な言葉を付け足す。
「ふぅむ……こりゃ推測やけんな。坊主っちゅうより、おりゃらんメンバーなら誰でん良かったっちゃねぇと? そこん、ハンサム君は除いてな」
光助は和仁を指さして言った。
「ハンサム君って……わかってらっしゃる」
「光助の言葉は大抵皮肉か嫌味なんだよ。そのまんまに受け取るな」
「いい加減にしなさい。で、光助。それってどういうこと?」
少しでもチャンスがあれば相手をけなそうとする二人をなだめ、結子は聞き返した。このメンバーの中では光助が最も頼りになる。
「携帯を奪う理由と言ったら、まず真っ先に考えられるのは……情報を得るため、だろう。持主の個人情報しかり、登録されちょるアドレスや電話番号しかり、あれ一台だけで相当の情報が詰まっちょっやろ?」
「それもそうね」
「僕の個人情報なんか見たってどうしようもないから……目的は、登録されてる番号?」
段々話がつながってきた。それでも結論を急がず、一つ一つ、ゆっくりと可能性を探って行く。
「他にも犯罪に利用するっちゅうのもあっけん、それならわざわざおりゃらにケンカ売らんでも、誰のでも構わんやろ。こげなのさん(面倒な)こつすっとこを見っと、誰かん情報を求めちょってことで間違いなかろう」
「それじゃあ、誰の情報が欲しいのよ」
「相手ん行動かい察するに……おりゃやジョーや結子んこつはある程度知られちょるようだな。そうなると消去法で、アレに決まるな」
和仁を除いた全員が、同じ答えに辿り着いていた。この組織と関係があり、おそらく相手がまだ知らない――いや、直人の携帯を奪うまでは知られなかった人物。
「ボス……さんの電話番号?」
直人が緊張した声をあげる。確かに、直人は「ボス」と連絡を取るために番号を登録していた。もっともまだ使用したことはないが。
「ま、番号自体はポスターで公表されちょっけんな。あのポスターの主がウチんボスやっちゅうこつは誰も知らんだろう」
「最初っからボスの電話番号を得るのが目的だったってことか!?」
「そん可能性が高い。そもそもボスん存在自体がどうして知れたんかはわからんが……。おりゃら偏才の集まる組織があっことがバレてしまえば、そん指導者がおるっちゅうこつも簡単に推理できるやろ」
「それでもまだ疑問は残るわよ」
結子があごに手の甲を当て、考えながら恐る恐る意見を述べる。
「ボスの電話番号を知って、それからどうするつもり? ボスの本名や住所は私たちすら知らないのよ」
「番号さえわかりゃ、その辺はすぐに調べられっじゃろう。わずか数日でおりゃらんこつを調べ上げたような奴らしいかいな、敵は」
「でも……ボスと何を話すつもりなの? 私達がやったことで文句でも言うつもり?」
「落ち着けよ、結子。光助に問い詰めたところで敵の全てはわからねぇぞ」
珍しく丈二が結子をなだめるものの、結子の心の中は激しく渦巻いていた。二年前につらい別れ方をした親友・みどりが何をしたいのか、結子は早く知りたいのだ。
「……おそらく、相手は……ボスの関係者やろ」
光助がボソッとつぶやいた。それを聞き逃したものはいない。
「なに? 光助」
「いや、その前に、話さにゃならんこつがあっなぁ」
「おいおい、何をだよ」
「にゃふ……」
膝の上で眠っていたケリーが目を覚まし、机の上に飛び乗った。
「おりゃあ、ボスと会うたこつがある。電話やねして、直接な」
「え?」
誰にとっても、意外な言葉だった。和仁さえも、「ボス」の正体は秘密だと聞かされていた。
「ボスに会ったぁ!?」
「っちゅーよか、こん組織はおりゃとボスが一緒に計画して立ち上げたもんじゃ」
ポツリ、ポツリと、光助は語りだした。「ボス」の正体と、自分の過去を。
トゥルルル……トゥルルル……。鉄の部屋に、電話のコール音が鳴り響く。
「はい」
「ボス」は腕を伸ばして受話器を取る。しかし、電話の相手はすぐには声を出さなかった。
「もしもし?」
『……フフ』
低い笑い声が聞こえてくる。
「もしもし? どうしました?」
『……間違いない。この声だ。やっと見つけたよ、風三 元彦』