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第三十一話・発見

「平崎結子、九断光助、立国丈二……積里直人。そして……」


 昼間だというのに薄暗い部屋の中で、「あざー先輩」こと字一(あざいち)はパソコンに向き合っている。


「フフ……皮肉なものだな。俺が必死に探しても見つからなかった『アイツ』の手がかりが、こんなちょっとした偶然で見つかるとは」


 字一はパソコンと携帯電話を駆使し、わずかな時間で膨大な量の情報を入手し続けていた。当然、それらの情報の中には、自分が探しているものとは無関係だったり、真実は異なる情報も存在する。しかし、字一はそれらの中から的確に”本物”だけを選び取っていく。


「後は俊やみどりが上手くやってくれれば、完全に情報がそろう。あと一息だ」


 字一の目に鋭い輝きが灯る。ここ三日ほどの間ほとんど睡眠も食事もとらずにパソコンを操作し続けていたため、体は痩せ細り、分厚いメガネをかけた顔は不健康に青白くなっている。それでも、メガネの奥の細い目は生き生きと光を放っていた。


「やっとだ……。やっと、アイツの居場所を突き止められる」


 口の端が大きくつりあがり、白い歯を覗かせる。


(いつぶりだろう……こんなに腹の底から笑いたいと思ったことは)


 あと少し、あと少し、あと少し。その言葉が呪文のように暗い室内に響き渡った。




「図書館のすぐ近くだと、中の奴らに気付かれる恐れがあるな。さぁ、行こうぜ! ハツ! お前の鼻で、あの女の居場所を探し出すんだ!」


「ワン!」


 俊とその犬――「ハツ」は図書館から離れ、そこから学校へと続く道のりを辿るように歩き出した。当然、無関係の人間にハツを見られると面倒なので、人目につきにくい路地を選んでいる。


「時間的に、もうそろそろ来る頃なんだ。授業が終わってまっすぐに図書館へ向かっているなら、もうこの近くまで来ていなきゃおかしいぞ」


「ワウ……」


 しかし、下校時間の町並みには大勢の歩行者がいる。その中から結子を探し出し、同時に自分たちが他の人間に気付かれないようにするのは困難なことだった。


「クソ、面倒だな。あの女が別の道を通ってたりしたらヤバいじゃんかよぉ! いっそのこと、夕方になってアイツらが帰るのを待つか!? 夜道を襲った方が楽かも知れねーしよォ」


 どうやらこの男、あらかじめ細かく計画してから行動するという発想に欠けているようだ。思いつきと勢いだけで行動し、しかも確認不足が多いため、ミスを重ねやすい。


「ああ〜、もう。あざー先輩に作戦考えてもらえばよかった〜! 好きにしていいって言われたから自分で作戦立てたけど、そういうの俺には向いてねぇってことに気付くのが遅すぎた!」


 とうとう頭を抱えて路地に座りこんでしまった。


「最初の予定じゃぁ……みどりちゃんが光助と丈二って野郎を連れて行って、俺が図書館で待ち伏せして平崎結子をやるつもりだった。直人とかいうチビは居ても居なくても関係なくな。それなのに……俺が、俺がみどりちゃんに写真見せるの忘れてたせいで、光助が図書館に来ちまった。っつーか、みどりちゃんもひと言いってくれればいいのによぉ!」


 ハツの方は俊にかまわず、学校帰りの学生たちを見張り続けている。犬は視力が弱いため、臭いで結子を探している。


「ど、どうする……? 本当にこんなんで見つけられんのか? やっぱり図書館で待ち伏せしてた方が良かったのか……!? いやでも、もしかしたらすぐそこに居るのかもしれねぇし」


 様々な思考がグルグルと脳内を巡り、散らばって収拾が付かない。だんだんパニックになって来た。


 しかし、ここに来て、天は俊に味方した。


「ワン!」


 小さい声でハツが吠えた。


「どうした?」


 俊が顔を上げ、大通りの方を見ると――。


「い、いやがった! 平崎結子ォ!」


 数人の女子たちと共に、おしゃべりをしながら歩く結子の姿があった。時折腕時計に目をやっているところを見ると、時間を気にしているようだ。


「ハッハハあぁぁ……。偏才以外の友達か、あれは。放課後の遊びに誘われて仕方なく付きあってやってるって感じだな」


 結子の表情は一応笑っているが、早く一人になりたくてしょうがない、といったところだった。図書館へと向かうべく、会話のタイミングを計っているようにも見える。


「好都合だな。こっちとしても、さっさとあの女が一人になってくれた方がいい。ハツ、このままアイツらの後をつけるぞ」


「ワウ」


「さぁさ、平崎結子。早いとこそいつらを追っ払ってちょうだいな」


 長い「おあずけ」がようやく終わりそうだと確信し、俊の目に力強い光が宿った。

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