第三十話・暗躍、そして変更
丈二・和仁と別れた後、直人は一人で図書館へ向かっていた。
「あの二人って、なんであんなにケンカしたがるのかなぁ……。前世でなにかあったりして」
などとつぶやきながら歩いていると、途中である人物に出会った。
「おう、坊主。今日はジョーや結子と一緒やないとけ?」
「あ、光助さん。えっと……丈二君はちょっと道案内をしてて……。それで、平崎さんは……あっ」
唐突に思い出した。
(そうだった! 平崎さんをデー……遊びに誘えって言われてるんだった)
「どんげした? 坊主」
光助は急に頭を抱えだした直人に質問する。その言葉には、好奇心のニュアンスがあった。
「い、いえ。何にもありません」
「ウソはいかんなぁ。結子をもう一遍誘うのに、どんげなして言い出そうかって考えちょっちゃろ?」
少し、カマをかけてみる。
「えっ! 知ってたんですか!?」
「ほほう、図星か」
「……あ」
完全に手玉に取られている。もっとも、これは特技というよりも単純に光助の性格が悪いだけのようだ。
「適当に言ってみただけやっちゃけん、大当たりけ」
「あの……これは丈二君の提案で……」
「ハッハッハ! ジョーも気が利くわ〜。ま、しっかり頑張りや、坊主」
「だ、だから、まだそんな心構えが……」
そして、二人は一緒に図書館へ行くことになったのだ。
「おいおいおいおい……何やってんだよ〜、みどりちゃんは。何で九断光介がここにいるんだ〜?」
俊は混乱しながらも、バッグからファイルを取り出す。そこに挟まっているプリントには、「あざー先輩」が調べた直人や丈二、そして光助の写真が載っていた。
「間違いねぇ……やっぱり光助だ。どうなってんだ!?」
慌てて携帯を取り出し、再び電話をかける。しかし、聞こえてくるのは機械的な女性の声だった。
「クソッ! こんな時にあざー先輩は通話中かよッ!」
さきまで自分と会話していたのに、今は誰と話しているのか? という疑問が一瞬浮かんだが、それをすぐに打ち消して再度指を動かす。
「先輩がダメならみどりちゃんに確認だ。あの男には手を出すなって言われてるからなああぁぁ〜……ちくしょう!」
電話発信のボタンを押してから最初のコール音が聞こえるまでの間が、俊には長く感じられた。
携帯の着信音が鳴り響いた。
(俊から……?)
みどりは一瞬怪訝な顔をするが、すぐに丈二と和仁へ笑顔を向けた。
「すみません。ちょっと友達から電話がかかってきて……。すぐに終わると思うので待っててください」
「ああ、いいよ」
二人から離れた所に移動して電話に出る。幸いにも、みどりが離れると同時に後ろの二人はケンカを再会したらしく、多少大声を出しても会話を聞かれる心配はなさそうだ。
「どうしたの? こっちはちゃんとやってるわよ」
『やれてねぇんだよ、それが!』
俊の声は妙に焦っている。
「どういうこと」
『お前、ちゃんと九断光助の顔を確認してたのか!? あいつ、こっちに来てるぞ!』
(え?)
改めて、みどりは二人の方を向く。積里直人と共に行動していた、二人の男子を。
「確認も何も、そもそも写真を受け取ってない」
『は?』
「だから、私は光助と丈二の写真は見てないのよ。積里直人は顔を知ってたから、そいつと一緒にいた男子二人を誘導してる」
『はぁ? 写真もらってないって……あっ』
なにやら、思い当たる節があるようだ。
「まさか、私に写真を見せるように言われてたのに、すっかり忘れてたとか?」
『……』
沈黙が、「そうだ」と伝えているようだ。
「写真がないものだから、私はてっきり、そこまで調査が進んでないのかと思ってたんだけど。それで仕方なく前情報だけを頼りに二人を誘導したの」
『おいおい、なんてくっだらねぇミスだよ!』
「そのミスをしたのはそっちでしょう」
電話の向こうから、俊の歯ぎしりをする音が聞こえてくる。
『ちくしょう……なんでこんなミスしちまうんだ。一体、どうすりゃいいんだよ!』
「光助に手を出しちゃダメってことはわかってるでしょ?」
『当たり前だ!』
ほとんど八つ当たりするように怒鳴りつけてくる。しかし、あくまでもみどりは冷静だった。
「ねぇ。それで、そこに平崎結子はいるの?」
『いや……チビと光助だけだ。ハツに見張らせてる』
「なら簡単じゃない」
みどりは突き放すように冷たく言い放った。
『あ?』
「わからないの? そこにターゲットがいないなら、結子が図書館に来る前に見つけてやっちゃえばいいだけじゃない」
『あ……』
「組の関係者を巻き込まなければいいだけでしょ? 今ならチャンスじゃない」
『おお、そーだった!』
俊の声が一転して、歓喜にかわる。
『そういやそうだな! みどりちゃんが何もしなくたって、アイツらが勝手にバラバラになってくれてんじゃん!』
「やっと理解した?」
あまり長引くと、丈二たちに不振に思うわれる。みどりはそれだけ言ってすぐに電話を切り、二人の下へと戻っていった。