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第三話・その名は偏才

(それにしても、なんなんだろう。この人たちの関係は……)


「ん、なんか言った?」


「ううん。なにも」


 直人はひじの手当てをしてもらいながら、改めて室内を見渡す。部屋の大きさは学校の図書室と同じ程度だが、明かり窓が一か所しかないため、室内灯がついていなければ相当薄暗く陰気な空間だろう。


「ここんとこ仕事来ないなぁー。結子のヤマも手伝うほどじゃないだろうし」


「町が平和なんはいいこっちゃ。別に給料もろうて働いとるわけでんねぇかいね」


 二人の男――立国丈二と九断光助はすでに直人への関心をなくしたらしく、何やら妙な話をしている。


「ボスかい連絡が来るまで待つしかねぇわ。時間潰すための本ならいくらっでんあっぞ」


「難しすぎて読めねぇよ、ここの本は」


 丈二は本棚を見上げ、ため息をつく。


(なんか今『ボス』とか聞こえたけど……気のせいだよね?)


「はい。これでよし。ちょっと大げさにガーゼしといたわ」


「あ、ありがとう」


 結子の治療の手際はよかった。元運動部ということもあって、小さな怪我の処置は慣れているのだろう。


「ただ、制服が破れたのはマズイわねぇ」


 制服の右ひじの部分はアスファルトで擦れ、小さい穴が開いていた。


「あ、この程度なら……」


 と、直人が言う前に結子が二人に声をかけていた。


「ねー、どっちか裁縫できる?」


「ムリ」


「不可」


「だと思った」


(なら何で聞いたの……)


 直人は密かにツッコんだ。


「私もこーゆーのは苦手だしなぁ……」


「あ、この程度なら僕が自分で出来るよ。ちょっとした才能……(とか、言ってみたりして……)」


「…………え?」


(え?)


 結子が小さな声をあげ、目を丸くして直人を見つめる。


「得意なの?」


「う、うん。縫い物は子どものころからよくやってるから……」


 直人もまた驚いて目を丸くしている。結子だけでなく、丈二や光助までもが自分の方を注目し、席を立って近づいて来ていることに気付いたからだ。


(え、なになに? そんなに珍しいことだっけ? 裁縫って。それとも、僕のことを何の取り柄もないダメな奴だと思ってて、それで驚いてるの!?)


 恐る恐る、丈二が口を開いた。


「えっとツモリ君、だよね? 縫い物が得意ってのはその……どのくらい?」


「いやその、どのくらいって言われても」


「そん……どんなものでも一瞬で正確無比に縫いつけられるっちゅうぐらいのもんけ?」


「いやそこまでは……」


「得意なのって、裁縫だけ?」


「一応、家庭科で習うようなことは大体得意だけど……!?」


 三人に食い入るように問い詰められ、直人は奇妙な恐怖感に襲われる。


(ちょっ、ちょっと本当に何なのこの人たち〜!? 才能って言った途端スゴイ反応……)


 少し間をおき、最終確認、と言うように結子が問いかけた。


「特に練習とかしないでも、最初っからかなり上手かった?」


「……う、ううん。最初はかなり失敗ばかりだった……」


 しんとした静寂が、図書館の秘密部屋を覆った。廊下の向こうにある一般書庫室で本を出し入れする音が聞こえるぐらい、静かだった。


(ボク、なにか地雷踏んだ? いけないこと言った? 手当してもらってなんだけど、もう解放して家に帰してよ〜。お願い平崎さ〜ん……)


 今にも泣きそうな顔で、必死に心の中で祈る。すると、その祈りが通じたのかどうか知らないが、三人は一斉に口を開いた。


『……っはぁ〜〜』


 ホッしたような、残念なような。どちらとも取れるため息だった。


「ちょっと一瞬、期待したんだけどなぁ」


「ああ俺も。ドキッとした」


「まぁ、そうゴロゴロおるもんでもねぇしな。本物ならボスが連絡してくるはずやし」


 さっきまでの熱気がウソのように冷めて行く。


(イキナリ寄ってきたり離れたり……もう、さっきから訳のわからないことばっかりじゃん! なんで僕がこんな目に会わなきゃなんないの!?)


 これまでの一連の出来事に、気の弱い直人もさすがに怒りを感じた。


(もしかして、みんなでからかってるの? 新手のイジメかなにか!?)


 混乱と怒りが混じり、瞬時に爆発した。


「イイ加減にしてよ! もう!」


 バンッ! と勢いよく机を叩き、怒鳴りつける。


「ここは一体、何の集まりなの!? ボスだとか仕事だとか、子どもの遊びみたいなこと言って何がしたいの!?」


「つ、積里君、落ち着いて……」


「あ〜あ、坊主がパニくりおったわ。結子、なぐさめて説明しちやりぃ」


「う、うん」


 光助に指名され、結子が興奮する直人の肩に手を置く。


「ゴメンね。思わず驚いちゃって……。説明してあげるから落ち着いて」


 そう言われ、直人の怒りは収まった。もともと怒りの爆発は一瞬だけだったらしい。ただ代わりに、結子の手が自分の肩に乗っているという事実のせいで興奮は収まらなかった。


「いい?」


「あぅ……うん」


 早まる動悸を必死に抑えつつ、視線は結子の瞳に固定したままうなずく。


「今私たちが驚いたのは、才能って言葉を聞いたから」


「えっ……。それってヤッパリ、僕に特技や才能があるのが、そんなに意外でおかしいってコト……?」


「ううん、そうじゃないのっ!」


 結子は激しく頭を横に振って否定する。


「私達は……才能って言葉に敏感なの。それで集まったメンバーだから」


「才能で?」


「そう」


 ゴクリとツバを飲み、一言ずつハッキリと言った。


「私達は、『偏才』なの」


「へ、へんた……?」


「ヘ・ン・サ・イ。おねーさん怒るよ?」


 冗談を言う余裕は、互いに取り戻したようだった。

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