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第二十八話・接近する影

 中間テストを目前に控え、普段の授業もテスト対策の自習が多くなった。直人は形だけは真面目に教科書を広げているが、横に座っている丈二と話をしていた。


「えっ、じゃあ丈二君は光助さんがあそこの組の人って知ってたの?」


「知ってたっつーか……光助とはガキの頃から仲良くて、昔遊んでた時にそんなこと言ってたような気がする。その時は冗談だと思ってたけどな」


 丈二の方は教科書を出してすらいない。もっとも、教師が監視していない自習時間では珍しくない光景だ。


「まさか本当だとは思ってなかったけどな」


「へぇ」


「それよかさ、直人。俺が聞きたいのはその後なんだけど」


「その後?」


 丈二はニヤリと笑って席を立った。隣に座っている直人の肩に腕を回し、顔を近付いてボソボソと話しかける。


「組の本部から出た後、結子とちゃんとデートできたか? ってことだよ」


「デッ、デート!?」


 直人は、一瞬飛び出しそうになった大声を必死に押し殺す。


「どうだった?」


「どうって……その、時間があんまりなかったから、少しだけ買い物して、それで……おしまい」


 耳の先まで火照らせて直人はうつむいた。周りの人間が聞き耳を立てていないか、気になって仕方ないようだ。


「じゃ、もう一回デートやり直しだな」


「だから、デートじゃ……」


「今度は直人が誘えよ」


「僕がっ!?」


 今度は抑えきれずに声が大きくなった。が、幸いにもクラスメート達は勉強や雑談に夢中で二人の会話を聞いてはいなかった。


「この前のは俺と光助がセッティングしたからな。今度は男らしく、自力でこぎつけてみろ」


「で、でも、なんて言ったらいいか……。断られたら気まずいよ〜」


「大丈夫だって。別に告白するわけじゃないんだからさ。してもいいけど」


 最後の一言が余計に直人を追い詰める。


「俺が見た感じじゃあさ、けっこう脈アリ、だと思うけど」


「え?」


 興奮と驚きで、一瞬直人の呼吸が止まった。


「結子さぁ、直人のことを悪くは思ってないみたいじゃん。同じ中学だったって共通点をおいても、割と親密な関係になってるんじゃね?」


「ししし、親密ってそんな……」


 キーン、コーン、カーン、コーン……。


 授業終了のチャイムが鳴り、礼をするために教師が戻ってきた。


「よし!」


 丈二は直人から離れ、席に戻る。


「今日の放課後、結子より先に図書館行って、デートに誘う打ち合わせしようぜ」


(ちょっと! 声大きいよ!)


 口には出さない直人の叫びを感じ取ったのか、丈二は朗らかに笑って見せた。


 その笑い顔は、放課後には苦い表情へと変わった。玄関を出たところである人物に会ったからである。


「お〜い、ナオ。今日の放課後、ヒマある?」


「かず君」


 声を返した直人の背中にヒヤリと汗が流れる。……人間と言うものは、嫌いなものほど逆に引き寄せられてしまうものだと思い知らされたようだ。


「時間あったらさぁ、久々にゲーセンでも行かね? テスト前って部活ないからヒマなんだよ」


「あの、今日は……」


 なんとか穏便にやり過ごそうとするが無駄だった。


「部活ないなら自主トレでもやってろよ。スポーツバカ」


「自主トレもやった上で時間が空いてんだよ。そのぐらいわからねぇか? ただのバカ」


(ただのバカってなに?)


 またもや罵り合いが始まった。もはやあいさつ代わりだ。


「普段から部活もやってない暇人間は黙ってろ」


「他にやるべきことがあるなら部活やる必要なんてねぇんだよ」


 言い合いながら三人は歩いて行く。校門を出ても丈二と和仁は口ゲンカをし続け、直人が二人を置いて走り去ろうかなと考えだした時――。


「あの、ちょっといいですか?」


 三人に声をかける人物がいた。他校の制服を着た、短髪の美少女である。


「え? あ、俺ら?」


「そうです」


「えっと……なに?」


 少女の登場で、しばしケンカが中断された。


「あの……私……」


 うつむいて上目づかいになりながら少女は言った。


「ちょっと、この住所までの道をききたいんですけど……。このあたり、初めてなものですから」


 よく見ると手にメモのような紙を持っている。メモを頼りにやってきたが、途中から道がわからなくなった、という風に見える。


「そこの地区なら知ってる。俺が教えてもいいけど」


 まっさきに丈二が声をかけた。その目つきから察するに、少女に興味(下心)があるようだ。


「なんなら、そこまで連れて行こうか?」


「あ、ハイ。お願いします」


 しかし、それだけでは済まなかった。


「待て。俺が行く。」


 和仁が口をはさんできた。またしても丈二に対抗心が湧いてきたのだろう。


「俺の家がそこに近いから、ついでに連れて行く」


「はぁ? 家とか関係ないだろ。俺が先に声かけたんだから俺が一緒に行く」


 今にも掴みあいをしそうな雰囲気だ。実際に少女が「だったら二人で案内してください」と言わなければそうなったかもしれない。


「それじゃ、悪いけど一人で行ってくれ。直人」


「うん」


 直人は安心して答える。とりあえずケンカに巻き込まれることは回避できたからである。


「じゃあ行こうか」


「よろしくお願いします。あ、私、みどりっていいます」


 少女――みどりはかすかに笑って、そう名乗った。

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