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第二十一話・本当の対決

「あんの野郎、バスケ部のエースが素人に本気だしやがって……」


 丈二はまだブツブツと言っている。直人と丈二は教室へ戻り、服を着替えているところだった。


「あともう一試合やってたら、俺が勝ってたってのーっ! そうだよな、直人」


「う、うん……」


 大人げない……と思いつつ、そう返すしかない直人であった。


(たぶん、今度はかず君にも同じようなこと言われるだろうな……)


 気が弱く、ケンカの仲裁が出来ない自分を責めつつ、着替えを済ませる。


「あ、しまった」


 着替えを終えて体育着をカバンに片づけていた丈二が、突然声をあげた。


「どうしたの?」


「体育館にタオル忘れちまった。取りに行きたいけど……俺、今週当番だから授業の準備手伝わなきゃならないんだよなぁ……」


 頭をかきながら、その視線は直人に向けられる。それを見て、直人はすぐに意図を理解した。


「それじゃあ僕が取ってくるよ。次の授業まであと五分だから、急げば間に合うし」


「お、いいの? じゃあ頼むわ。……結子にもよろしく」


「そ、それは置いといてっ!」


 なにはともあれ、直人は再び体育館へ行くことになった。




(やっぱり、誰かに見られてる)


 そんな予感が、結子の足を鈍らせる。そして結子が体育館のすぐ側まで来たとき、近くの草むらがわずかに動いた。


「誰? 誰かいるの!?」


 音のした方へ声をかけるが、反応がない。草むらは比較的大きく、人間一人が容易に隠れることができるほどであった。


「……」


 しばらくの間、じっと草むらを見張り続けるが、それ以降変化は見られない。


(気のせいだった? でも、念のため……)


 結子は出来るだけ球形に近い小石を拾い上げ、用心深く、慎重に草むらへと近づいて行く。


「そこに、誰かいるの?」


 一歩ずつ近付くほど、そこに何者かの気配を感じる。そこに誰かがいるのは間違いなさそうだ。しかし――。


(なんで返事しないの? まさか、呑気なバカが昼寝してるだけ……なんてことはないわよね)


 じりじりと距離を詰める結子は、草むらの向こうに何か黒っぽいものを見つけた。よく観察すると、黒ではなく、濃い茶色い毛で覆われたホウキのようなもので、ゆっくりと動いていた。


(シッポ!?)


 そう気付いた瞬間――。


「グァルッ!」


 草むらから茶色の塊が飛び出してきた。左後ろ脚にケガの跡がある、何度も見慣れたあの犬が。


「なッ……何でコイツがここに!?」


 驚いて体勢を崩してしまったものの、結子は素早く小石を持ち直し、向かってくる犬の鼻先へ投げつけた。


「ギャウッ!」


「え!?」


 まるでその動作を読んでいたかのように、犬は素早く空中に飛びあがって石をかわした。そしてそのまま結子へ覆いかぶさろうとする。


(ヤバッ……! なんか武器がないと!)


「ガァッ!」


「ッ……どけっ!」


 犬の脇腹をひざで思いっきり蹴り上げる。かろうじて第一撃からはのがれたものの、犬は少しも怯まずに再び飛びかかる構えを見せる。


(どうする!? こんな大きな犬、素手じゃ対応できない……!)


 すぐそこの体育館に行けば、人が大勢いる。しかし、なぜこの犬が襲ってくるのかわからないが、関係のない人間を巻き込むわけにもいかない。


「グアアアァァ!」


「くっ……マズ……」


 小石ならまだいくつか落ちているが、結子は球形のものでないと偏才を発揮できない。素早く動き回る犬を仕留めることは困難だ。


(それでも、何もしないよりはマシッ!)


 小石を数個まとめて拾い上げ、犬に向けて投げつける。だが、犬はそれらをたやすく回避すして飛びかかってくる。


「ッこの!」


 結子の手には一つだけ石が残されていた。さっき拾ったものの中で、一番サイズの大きい石を投げずに残していたのだ。


「グッ……」


 結子が石を強く握り、即席の武器にすることに気付いた途端、犬は急速に飛びかかる方向を変えた。さきほどまで潜んでいた草むらに再び飛びこみ、ガサガサと音をたてて移動する。


「う、うそ!?」


 素早く右へ、左へと往復して移動する。結子は犬の体で葉が擦れる音を聞き、その位置を予測している。しかし、ふいにその音が止まった。


(何よ、この犬……。本当にただの飼い犬なの!?)


 結子は最後に音が聞こえたあたりをじっと見つめるが、おそらく、犬はすでに音を立てずにそこから移動しているだろう。


(どこから、どこから来るのよ)


 草むらに近付けば、その向こうに隠れた犬を見つけることはできるかもしれない。しかし、下手に近付くことによって、さっきと同じように不意打ちを受ける恐れがある。


(クッ……。次にアイツが出てきたら、この石を思いっきりぶつけるしかない。なんとか鼻先にぶつければ、一発で仕留められるはず……)


 草むらから視線を外さないまま、逆に距離を取る。


(……)


 すぐ近くの体育館から聞こえる生徒達の声がずっと遠い世界のように感じられる程、静かな空間が広がった。


(……来るなら来い。どこからでも)


 しかし、その沈黙は意外な声で破られた。


「ひ、平崎さん。なにやってるの……?」


「積里君!?」


 直人が現れると同時に、草むらから犬が飛び出した。

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