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第十五話・カウンセラーの域

「こっかい先は、直接ボスと会話した方がよかろう。……直接っちゅうても、電話越しにやけんな」


 そう言いながら、光助は電話の受話器を取る。


「え、そのボス……さんと話せるんですか?」


「おう。別ん怖がる必要はねぇかい、安心しぃ」


 番号を押し、相手が出るのを待つ。


(どんな人なんだろう……。へ、変な宗教の教祖とかじゃないよね……?)


 三回ほどコール音が鳴った後、「ボス」が電話に出た。


『どうした?』


 周りが静かなせいで、受話器から離れている直人にもハッキリと声が聞こえる。


『ああ、そういえば昼ごろに電話した時、後でかけ直すと言っていたな』


「あい。例の坊主んこつで電話さしてもらいました。一遍、直に話しちもらおうかと」


 そう言って、光助は直人の顔を見る。


「どんげすか? ボス。もしよけりゃあ、今すぐ電話かわっけん……」


『……ああ。わかったよ光助。そのナオトとか言う少年とかわってくれ』


 光助が手で直人を招く。ちなみに、丈二は閲覧席の机に顔を伏せている。春の日射しに誘われて眠りについたようだ。


(う、うわ〜……。話って、何を話せばいいの?)


 緊張しのせいか、直人の足取りはギクシャクしてしまっている。光助から受話器を受け取り、震える声を出す。


「こ……こんにちは」


『……ああ、君がナオトか。光助から聞いている』


 低く、渋い声がますます直人を緊張させる。


「あのっあの……僕は」


『硬くならなくていい』


「え」


『恐れなくてもいい。私は別に大人物ではないのだからな』


 一転して、穏やかな声になった。直人の緊張をほぐそうとしているらしい。


『深呼吸でもして、気持ちを落ち着けろ』


「は、はい」


 直人は素直に従い、受話器から顔を放して数回深呼吸する。それを見た光助が小さく吹き出したが、無視することにした。




(……素直な少年だな。光助に遊ばれそうな性格だ)


 「ボス」はソファーに深く座り直し、リラックスした体勢をとる。


『あの』


「落ち着いたか」


『は、はい』


(まだ少し緊張しているな)


 クッと、かすかに笑い声をあげる。無論、電話の相手には聞こえないように。


「それで……そこにいる偏才たちと、私の関係について知りたいのだったな」


『は、はい!』


(少しだけ声が強くなった……。相当待ちくたびれていたようだな。不安が薄れて期待が濃くなってきた)


 「ボス」は正確に直人の感情を読み取る。


「まず……私のことについて少し話そうか」


『お願いします』


「私の職業は……光助にポスターを見せられてわかっていると思うが、一種の心理カウンセラーだ。一般には悩み相談室と呼ばれているがな」


『はぁ……。あの、ポスターには悩みが解決されるかも、とか書いてありましたけど……あれはどういう意味ですか?』


「ああ、それか……フフ」


 今度は、ハッキリと口に出して笑った。


「それは、光助が勝手に書いたものだ。ポスターの作成を頼んだら、勝手に書き足されたのだ」


『そうなんですか…………』


(ん? 今の間は……)


 直人の無言からわずかなニュアンスを感じ取り、思考を巡らせる。


(そうか、光助が傍で話を聞いて、何かやらかしたな)




 まさにその通り、二人の会話を聞いていた光助は、今のポスターのことを聞いた途端、ニヤリと笑って胸を張ったのだ。


(え、それってイバることなの?)


 と、直人は半ば呆れている。


『話を戻そう。私の仕事は、人々の悩みを聞いていくらかのアドバイスをすることだ。もっとも、悩みの相談内容は特に制限していないから、なかには私にもアドバイスしようがない悩みもくる』


「え? そういうものなんですか」


『そういうものだが、それでも結構どうにかなる。大体の悩みやストレスというものは、人に話を聞いてもらうだけでも精神が楽になるものだ。時には全く助言する必要のないケースもある』


「へぇ……」


『本当に、様々な内容の悩みの電話が来る。イタズラや冷やかしも多い。だが、本当に心の中から悩み、救いを求めてくる者もいる』


 ここからが本題、というような口ぶりになった。


『例えば、上級生にギャンブルを強制されて金を巻き上げられた、とかな』


「……」


『そう言った悩みをいくつも聞いていると、言葉でアドバイスをするだけに留めるのは忍びなくなる』


「はぁ……あ、それで仕事を依頼するんですか?」


 直人の中で、話がつながってきた。


『本来なら、それはカンセラーの域を越えたお節介だ。やるべきではない、と言うよりもやってはならない行為と言える。だが……』


「……だが?」


『そんな時に、別の悩みを持った若者が現れたのだ。自分に出来ることはないか、自分の才能を、人のために役立てられないか? ……と』


「才能……」


 直人は受話器を持ったまま、光助の方を振り返る。いつの間にか丈二も起きており、真剣な顔つきで二人の会話を聞いていた。

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