第十一話・天才と偏才の相性
「それで、俺がポーカーで金を取り戻したってわけだ」
「へー……。要するに、丈二君の特技はトランプが強いってこと?」
「う〜ん、まぁ……。ものっすごく簡単に言えばそんなもん……かな?」
「しょっぼい才能よね」
結子がからかうように笑い声を上げる。
「うっせぇよ結子。偏才ってのは大体そんなもんだろうが」
丈二は眉をひそめて反論するが、額に汗を浮かべているところを見ると自分でも地味な才能だと認識しているらしい。
「俺のはただ勝つだけじゃなくて、その……。アレだ、トランプでものを切ったりも出来るぞ。一応(練習して)」
「あ、それはちょっとスゴいかも」
「どっちみち、カジノのディーラーかマジシャンにでもならないと使い道ないわよね」
直人は素直に感心するが、結子はまたも笑ってからかう。
「う・る・せ・えっての」
「アハハハハ」
丈二は怒った顔をして結子の頭を小突く。
「女の子の頭叩くなってば、ジョー」
そう言う結子の表情は、子どものように純粋な笑顔だった。一緒にいるのが楽しくて仕方ない、というような顔だった。
(この二人……仲、いい……?)
ズン。直人は胸の奥のあたりに、なにか重いものを感じた。それは小さな重しだったが、直人は息苦しさを覚えてゴクリとツバを飲んだ。
「……ん、そーゆーこっちゃ。あい、了解」
携帯で『ボス』に電話していた光助が戻ってくる。
「一応確認取ってみたが、別ん話しても構わんらしいぞ。最初かいそげんすりゃよかったっちゃ」
「……ボスのことを最初に話したのも、後から秘密にしようって言いだしたのも、全部お前なんだけど」
丈二がツッコミを入れる。
「終うたこたぁ気にすんな。どれ、坊主。話しちゃるわ。おりゃらとボスん関係ば」
「本当ですか!? ……やっと、かぁ……」
直人は胸の重みを忘れ、安心したように大きく息をつく。
「そもそも、ボスっちゅうんはなぁ……」
と、光助が話し始めた時――。
「ハァ、ハァ、見つけたぞ。……ジョー、とかいう奴」
息切れした声が聞こえてきた。
「おぉ? アンタ、さっき一緒に屋上にいた一年じゃねえか。職員室から解放されたのか」
声の主は、先ほど丈二と共にギャンブルに参加していた一年生だった。そして、直人のよく知っている人物だった。
「か、かず君!?」
「ナオ……!? なんでコイツと一緒にいるんだ?」
覚えておいでだろうか。その人物は直人の中学時代からの親友にして、バスケットボールのエース。栄和仁であった。
「あれ、栄君?」
「あっ平崎さんまで!?」
必然的に結子とも同じ中学だったということになる。もっとも、この二人は特に交遊関係があったわけではない。
「へー、意外。私のこと知ってたんだ」
「そりゃあ、ソフトボールの天才ピッチャーって、有名だったから……」
(天才……ね。正確には偏才だけど)
ほんの一瞬、結子の顔に影が走る。
(本当に私が天才だったら、あんなことには……)
「で、その……そっちこそ、俺のこと知ってたんだ」
「……うん。バスケの『天才』だからね」
少しだけ語感を強くし、皮肉を込めて言い放った。しかし、そのことに気付いたのは光助と丈二だけだった。
「何でココがわかったか知らねぇけどよ、ホレ、あんたの負け分だぜ」
丈二が封筒に入れ替えた現金を和仁に差し出す。
「えっ!? その上級生に無理やりお金を取られた一年生って、かず君のことだったの!?」
直人が驚いて声を上げる。和仁は中学時代から上級生との付き合いも上手く、威されるということはなかった。また、自らギャンブルに没頭するようなタイプでもない。直人にとっては意外なことだった。
「バスケ部のキャプテンなんだよ、あの金髪の三年」
「げっ、あの、俺が打ちのめしたリーダー格のヤツ?」
今度は丈二が驚いた。それと同時に、その手に持たれた封筒が和仁によって払い落された。
「おいおい、なにやってんだよ。お前が負けた金だぜ? 先月からの分も含めて。遠慮せずに受け取っておけよ」
丈二はムッとして封筒を拾い上げようとするが、和仁にはその制服の襟を掴みあげた。
「余計なことやってんじゃねぇよ!」
「か、かず君……!」
丈二の襟を掴んだまま、和仁は言葉を続ける。
「まず一つ言っておくが、俺は先月は参加してない。……つか、その頃の俺たちはまだ高校入学してないだろうがっ!」
「あー、そう言えばそうだったな」
丈二は冷静に返す。
「俺は今日、バスケ部の他の先輩からその話を聞いて初めて参加したんだ。バスケ部のキャプテンがカツアゲみてぇなことしてるなんて許せねぇからな」
「そいつぁ立派な心構えやな」
光助が口を挟むと、和仁はジロリとそちらを睨んだ。
「ポーカーみたいなかけ引きは得意だから、どうにかなると思ってたんだ。なのに、お前がイキナリ参加料を上げるとかわけわかんねぇことしたせいで、すっかり調子が狂っちまって……」
「それで負けたのが悔しいってか?」
「そうじゃねえ! お前の明らかなイカサマや教師へのチクリが許せねぇんだ!」
(……こ、この二人は……。まちがいなく、仲悪い……)
直人はどちらの肩も持てず、オタオタするだけだった。